西城家の花
西城家に一輪の花が舞い降りる
「大志ー!!たいしーーー!!どこなの!?大志!!!」
西城家の長男の名を屋敷中どこにいても聞こえる大声で叫んでいる長女、満は既に堪忍袋の緒がぶっつりと切れ、鬼の形相で今日の主役である弟を探し回っていた
屋敷中阿呆な弟を探し回っていたせいか、せっかく奇麗におめかしして締めたお気に入りの金の刺繡で蝶が彩られている黒の帯や、高く結い上げた髪も崩れていた
これも全てはこんな大事な日に、部屋でおとなしく待つことも出来ないあの阿呆のせいだ!!
何故あれほど言ったのに、ちょっと目を離したすきに姿かたちもなく消えているのだ
しかも、あの巨体に合うようにと必死の思いで母様と探し出した背広に腕を通してもいないなんて信じられん
今日はあの、流水家のご令嬢と初の顔見合わせだというのに、あと一時間もしないうちにあの麗しい令嬢が西城家の敷居をまたぐというのにあんの阿呆はどこで何をしている!!!
はらわたが煮えくりがえるほど弟に対しての怒りを沸々と湧き上がらせていた満が、母屋から離れた、広大な西城家の敷地の最奥にある建物に足を踏み入れると聞き覚えのある声が更に奥のほうにある縁側のほうから聞こえてきた
あの阿呆、まさか!!!
嫌な予感がして、着物が崩れるのもお構いなしに廊下を全速力で駆け出し、縁側に顔を出すとその嫌な予感は見事に的中した
「セイ!!セイ!!セイ!!セイ!!」
そこにいたのは上半身裸の、見るからに鍛え上げすぎた筋肉を惜しげもなく披露させ、竹刀を上下に振り回す阿呆な弟の姿だった
あまりにも衝撃過ぎて、呆然と立ち尽くしていると、そんな姉の姿に気づいた大志は先ほどまでの激しい稽古を中断させ、首にかけられていたタオルで額の汗を拭き、何事もなく
「姉上、どうなされましたか?」
と尋ねてきたので、ついに、というかやっと満の怒りが露になった
「こんんのぉぉぉぉぉ、アホ大志がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」