西城家の花
本来の美桜なら『可愛らしい』という誉め言葉に過剰なまでに喜んで反応するのだが、どうやら今の美桜にその言葉は逆効果らしい
いつもなら美桜好みの鮮やかな赤い色の浴衣と桃色の帯を選ぶはずなのだが、彼女が選んだのはあまり着たことがない落ち着いた色味の浴衣
しかもやけに大人っぽく見えるかどうかを気にするのにはわけがあったのだ
それは数日前の出来事だった
その日は大志と特に仲良く帰宅していて、手を繋ぎながら幸せな気分で道を歩いていると、その途中で二人のご婦人とすれ違った
『まぁ、微笑ましいわ』
『本当に微笑ましいわ』
すれ違いざまに誉め言葉をかけられ、更に気分が舞い上がっていた美桜だったが次の言葉で一瞬にして心が凍り付いた
『本当に微笑ましいご兄妹ね』
『えぇ、本当に』
美桜の心を凍り付かせたことに気付かなかったご婦人方はほほほほほほと笑いを残し、去っていった
『兄妹』という衝撃的な言葉を耳にした美桜は、ショックで思わずその場に立ちつくしてしまった
そんな美桜を心配した大志が不安げに顔を覗いてきたので、その時はなんとか平然を取り繕ってみせたのだが、耳の奥ではまだご婦人方が残していった『兄妹』という言葉が木霊していた
確かに大志が熊のように大きいうえに、美桜が平均より小柄なせいもあり、大志と美桜にはかなりの身長差がある
しかしあの時はどちらも自身の高校の制服を着ていたし、兄妹でも高校生同士が手を繋ぐなどあまりないことだ
なのに何故ご婦人方に恋人、ではなく兄妹と誤解されたのかをずーっと考えていた美桜はあることに気付いたのだ
美桜の通っている学校は、中高一貫の女子学校で制服も中高で同じものの着用を義務付けられている
つまり美桜は中学生に見られていたのだ、しかもたぶん中学に上がりたての一年生として
それだったら大志と兄妹に見られてもおかしくはない、しかしそれはつまり美桜は既に高校二年生の17歳だというのにかなり幼く見えるということだ
その事実に身をもって気付かされた美桜は暫く立ち直れずにいた