西城家の花






そんな時に大志に誘われた今回の花火大会で絶対に大好きな大志と恋人同士として見られるように出来るだけ大人っぽく着飾りたい美桜はこの数日ひたすらそのことだけを考えていたのだ





身長はもうかれこれ3年も伸びてないから諦めるとして、幼い顔立ちも整形しなければどうにもならないからこれも無理





読み慣れないファッション雑誌などを買い込み、必死に大人っぽいスタイルとはどういうものなのかを研究してみたが、どうやら美桜が出来ることといったら花火大会に着ていく浴衣選びと化粧で誤魔化すという方法しか残されていなかった





浴衣は大量にあるから、屋敷中探し回せばなんとかなるかもしれないが、化粧といったら七五三の時に紅を塗ってもらった記憶しかない美桜は高校生になった今でも化粧らしい化粧をしたことがなかった





このままでは落ち着いた大人な浴衣を着る子供という見事な不格好な姿が出来上がってしまうと恐れた美桜は長年美桜に従者としてついている結衣に助けを求めたのであった






「お嬢様はお肌がお綺麗ですので、化粧などせずとも十分にお美しいですわ」





「駄目よ!!絶対に駄目!!もうわたしのことをたぶらかすのはやめて頂戴、結衣!!」







幼いころから可愛い、美しいと愛でられてきた美桜だったが、今回ばかりはこの言葉に騙されてはいけないのだ





可愛いとは本来小さくて、幼いものに対して使われる言葉、いつまでも可愛いと誉められ、喜んでいる場合ではないのだ





化粧をしなくても完璧に整えられた美桜の顔に化粧を施すなんて勿体ないと思いながらも、主人の命には逆らえない結衣が渋々化粧下地を美桜の顔に塗ろうとしたとき、それを妨げるように声が入ってきた






「なんだ、美桜。貴様、仮装舞踏会にでも出かけるつもりか」






聞き慣れた声に美桜が振り向くと、さっきまで閉じていたはずの襖が開いており、そこからよく見知った顔が布団の中から頬杖しながら美桜を見ていた






「花火大会ですわ、健お兄様。大志様に誘われましたの」





「あぁ、あの西城の大熊とか…。しかしそれで何故貴様はそのような妙な格好をしている。花火大会ならいつものお気に入りの金魚の柄が描かれている浴衣を着ていけばいいじゃないか」





「あんな子供っぽいもの、もう着ていられませんわ!!」






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