西城家の花
豪華絢爛な食事の前で、普段食べられないようなものが目の前にあることで大志の心が少しだけ浮き立った
ここが見合いの席だと気にもせず、しかし決してがっつくような真似をせず、まかりなりにも武道の西城の子息、ある程度の作法に則りながら目の前の食事を堪能していた
やはりこういうときでもないと一人で尾頭付きの鯛を食べられるなど滅多にないなと、巨体には似合わず綺麗に鯛を平らげていると、前のほうから息を吐く音が聞こえてきた
そちらに視線を移すと、かのご令嬢、もとい流水 美桜が目の前の食事にも手をつけずどこか上の空な表情でこちらを眺めていた
さっきも顔を真っ赤にさせ父親に支えられなきゃ歩けないほどの姿を見た大志が食事に手を付けない美桜を見て具合が悪いのかと思うのは当然のことといえば当然で
咀嚼していたものを飲み込み、未だにぼーっとこちらを眺めている美桜に向かって投げかけた
「何も食べないのか?」
不意に投げかけられた言葉に反応は暫く返ってこなかった
まぁいつものことかと気にせず食事を続けようと箸を次の獲物へと誘っていると、また前のほうからいひゃっという声が聞こえ、前を向くと、隣に座っている父親に耳打ちをされ、真っ赤になりながらパクパクと口を開け閉めしている美桜が大志をまっすぐと見ていた
「あの、その…!!」
涙目で何かを訴えたい彼女に大志はどうしていいのかもわからずじっと彼女が次に発言するまで待った
「わたし、その…胸がいっぱいいっぱいでして、その…」
結局最後まで言わず口をごもらせ、顔を下に向けてしまった彼女の言葉を大志はすぐに理解していた
つまり、彼女は、既に腹が満たされていてもう何も口に出来ないらしいと
なるほど、確かにあんなか細い体だと摂取する量も遥かに少なくて済むなと一人で納得し、再び目の前の食事に集中しようとすると
「いっつ…!!」
ふくらはぎが急激に痛み、後ろを振り向くと、恐ろしい形相で睨みつけてくる姉と視線が合った