西城家の花
『美桜様…、どうなさいましたか?』
声をかけると、美桜はびくっと聖のほうを振り向くと、何故かその瞳には涙が溜まっている
その表情に何度も見覚えがある聖は急に眩暈を感じたが、すぐに息を整えた
大丈夫、いつものことなのですから、落ち着いて、落ち着いて
見慣れた少女の表情に少し落胆しつつも、聖は笑顔で美桜のもとへと歩み寄った
『あの、聖様。わたし、わたし…』
今にも泣きだしそうな美桜の肩を抱きながら、聖は宥めるように囁いた
『大丈夫ですよ、美桜様。大志は、少し外見が怖いだけで、中身は少し間の抜けたおっちょこちょいさんなんですよ』
『ふぇ…?』
唐突にそんなことを囁かれた美桜はわけもわからず顔を見上げたが、聖の表情を見て言葉を失った
美桜を宥めているというのに、何故か聖も泣き出しそうな表情をしていたからだ
『だから…、どうかあの子を怖がらないであげてください…』
自分の肩に触れている手が震えていると気づくと、美桜は聖が何に怯えているのかすぐにわかった
そして彼女が自分の行動に誤解しているということも
違うのだ、美桜は決して大志の姿を恐れているのではない、むしろ…
いや、ここで言うのはやめよう
きっと彼女を混乱させてしまうと判断した美桜は、震える聖の手に自分の手を重ねた
『大丈夫ですよ、聖様。この場にいる方々は誰一人、大志様の姿を見て恐ろしいなんて思ってもいません。あなた様のご子息はとっても素敵な殿方でございますよ』
きっと聖には彼女を慰めるための社交辞令だと受け止められるであろうが、美桜は心からの本心をぶつけたのである