西城家の花






今度のは相当痛かったのか、美桜がぎゃっと鼻を押さえながら体を起き上がらせ、自らを攻撃してきた母に反撃しようと腕を伸ばしかけた刹那





「はい、すとーっぷ!こんな狭いところで人を挟んで親子喧嘩しない!」





先ほどから二人の言い争いを笑顔で傍観していた父、宏昌によって阻止された





「放してください、お父様!!さっきのすっごく痛かったのです!仕返ししないと腹の虫が収まりませんわ!」





「当然の報いです!!あれほど自分の気持ちを抑えなさいと寺に行って座禅まで組ませたというのにあなたという子は…」





「だって、だって…!!」





「だってじゃありません!」





悦子に怒鳴られ、すっかり気落ちしてしまった美桜はぐすぐすと鼻を鳴らしながら宏昌の腕にしがみついた





「まぁまぁ悦子さん、美桜は今日初めて憧れの大志くんを目の当たりにしたのだから仕方のないことさ。誰だって憧れの人を目の前にしたら緊張してしまうよ」





「宏昌様がそんな風に美桜を甘やかすから、この子はいつまでたっても自分に甘いのです。いい加減少女から成長してもらわないと困るのです!」





悦子の言い分に笑顔で頷きながら、宏昌は内心複雑な気持ちになっていた




世間ではもっぱら評判がよい、目にもいれても全然痛くないほど可愛い可愛い愛娘、美桜は悦子の教育の賜物か家の外では絵に描いたような立派な淑女を振舞っていた




だが、一度外の世界から帰ってくると、彼女はただの少女へと戻ってしまう





気立てがよく、わがままをあまり言わないところは大変喜ばしいことなのだが、今日のように一度興奮したり緊張すると自分を抑えられなくなることが玉に瑕だ





実のところ、今日も西城家に向かう前に悦子が美桜を連れて、寺で座禅を組ませると聞いた際、宏昌は何もそこまでしなくてもいいだろうにと思っていたが、先ほどの美桜の有様を見て、これは相当重症らしいと考えを改めさせられた





子供たちは優劣なく育ててきたつもりだが、美桜はやはり女の子と知らず知らずのうちに甘やかしていたのかもしれないと宏昌は反省した





しかし、まさか美桜の想い人があの西城の大熊だったとは、まったくのノーマークだったため彼の名前を聞いたときは驚いた






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