西城家の花





普段滅多なことがない限りわがままを言わなかった美桜だったので、彼女の願い事がまさか自ら見合い相手を選抜するということに驚いた両親はすぐにその願いを聞き入れた





勿論相手が『西城の大熊』と陰で噂されている強面の堅物であっても美桜の願いならばと着々と縁談を進めていった





そして今日までに至ったわけなのだが、待ちに待った大志とのご対面で完璧に興奮状態に陥った美桜が暴走してしまったおかげで折角の初見合わせが微妙な雰囲気のままで終わってしまった





しかし、それなりの収穫もあった




西城大志という男が、案外美桜の未来の伴侶として申し分ないということに




むしろ宏昌と悦子の中で、大志はかなりの好印象を与えていた




西城との縁談を進めていた当初、大志の噂をちょこちょこ耳にしていた彼らは若干の不安を感じていた




あらゆる武道の達人というのはいいのだが、あまりにも体がたくましすぎるのは勿論、高すぎる身長や彫りの深い顔立ち、そして全ての生物を射殺してしまうかのような鋭い目つき





あまりにも怖すぎる、大熊と噂されるだけのことはあると思わず納得してしまった




ぶっちゃけていって美桜の好みを疑ってしまった




普通彼女ぐらいの年頃の少女は細身の、顔立ちもそこまで雄々しくない美丈夫を好むはずなのだが、どうやら美桜は違っていたらしい




外見で人を判断をしていけないと心得ているが、もし外見と伴って中身も熊のように乱暴で横暴な男だったらと不安でたまらなかった美桜の両親だったが、大志本人とその一家と顔合わせた瞬間、それは間違いであったと自分たちの思い違いを深く恥じた




なんと大志は、見た目の印象からは想像しかねるほど、大人しい性格だったからである





まぁ出会い頭に桜の木から飛び降りてきたから、ものすごく大人しいというわけではなさそうだが、きちんと礼儀を弁えているし、客人である流水にはもちろん、自らの家族に対しての接し方もとても丁寧であった




普段から使っていないと、ああいう言葉遣いはあの歳で堂々と口にすることは出来ない





大志の姉の満も多少気性は荒いようだが、一つ一つの動きがとても上品かつ優雅であり、西城の教育の高さには恐れおののいた






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