西城家の花





満の怒鳴り声が屋敷中に響き渡っていたおかげで、厨房突撃一歩手前で騒ぎを聞きつけた使用人たちと顔を真っ赤にさせて憤慨している父と、そんな父を宥める母が大志とそれに引きずられている哀れな満の道を塞いだ





「おい大志!!この阿呆息子!!お前はまだ自分が立たされている状況がわかってないようだな!!この機会を失くしてしまったらどんなことになるかお前がわからんはずなかろうが!!」





「…はて?なんのことでしょうか?」





本気で父が何を言っているのかわからない様子の大志に、真っ赤だった父の顔がますます赤くなり、今すぐにでも息子に掴みかかりそうな勢いだったが、それは母によってなんとか阻まれた





「お待ちになってください、あなた。やはり大志にはまだ早すぎたんじゃありませんか?お相手の流水家のご令嬢様もまだ齢16だということもありますし、やはりここは日を改めて…」





「そんな悠長なこと言ってられるか!!!そんなことしてみろ、かのご令嬢が心変わりしてしまうかもしれないだろうが!!この馬鹿息子とは違い、あの娘を嫁にと欲しがる輩はごまんといる。もしここで正式に大志との婚約を進めなければ、あやつに嫁いでくれる娘などどこにもいないかもしれないんだぞ!!そうなったら西城家は後継ぎもなく細々と衰退していくのを待つしかなくなるのだ」





今にも泣きだしそうな夫の肩を抱きながら、大志の母はうーんと頭を悩ませた





西城家の長男、大志は長女である満が10の時に生まれた待望の後継ぎだった





もう子供は、男子は生まれることはないと諦めかけた時に授かった大切な息子だ




自分はもちろん、夫も、家のもの全てが大志の産声を挙げた時に万歳三唱をしたぐらいに




今は貿易関係の仕事を営んでいるが、西城は武道の家柄、夫は息子をあらゆる武道の達人にするべく、やっとハイハイが出来るようになった歳から稽古をさせていたのだが、これが間違いだった





たくさん稽古をするおかげで、たくさん物を食べる、そしてその栄養を十分に吸収して大志は見る見るうちに大きくなっていった





最初のうちは健康に育ってくれて嬉しいとさえ思っていたのだが、その、なんというか気づかぬうちに度が過ぎてしまったのだ




適度についた男の筋肉は美しいとは思うが、息子のそれは明らかにそんなレベルではなかった





衣服の上からでもわかる盛り上がった筋肉は同い年の少女たちにとっては恐怖の対象でしかなく、どこへ行っても怯えられる息子





幸いにも顔立ちは、母である自分に似たのだが、高すぎる身長のせいでその顔を見上げるだけでも首が痛くなる




きっと生まれてくる時代や世界が違ったら間違いなく優秀な戦士だったろう、が今は平成、日本だ





まったく需要のない筋肉は既に大志にとってマイナスイメージしかなかったのだ




主に外見において






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