西城家の花







「…気に入ったか?」





「はい、とても!!」






無我夢中で目の前のあんまんを食べていた美桜が顔を上げると、そこには穏やかな笑顔を美桜に向ける大志の姿が目に映った





そこで美桜は自分はなんてはしたないことをしたのだと、頬が熱くなるのを感じた





殿方の、しかも憧れの大志の前で口を大きく開けて何かを食べる姿を見せてしまうなんて





もしこの場に母がいたら頬をつねられて、お説教が始まるぐらいのことだ





でも想像以上に美味しくて、しかも大志から頂いたものだからさらに美味しさが引き立っていたというか





そこで美桜ははたと気付き、手の中にある食べかけのあんまんに視線を移した





無我夢中で食べていたせいか。あんまんは既に一口分ぐらいの程度しか残っていない





大志が自分に初めて買い与えてくれたものをまさかこんなところで全部食べてしまうなんて勿体ない





しかし今ここで食べることを中断し、食べかけのあんまんをハンカチで丁重に包み鞄の中に入れるという行為も大変不可解だ





そんなことをしたら大志に確実に引かれてしまう





どんなことをしてでも大志に気に入って欲しい美桜は泣く泣く最後の一口を口にしたのである







「…とても美味しかったです。お恵み頂き、どうもありがとうございます」





「いや、満足してもらえたのならこちらも嬉しい」







大志の穏やかな笑顔にきゅんきゅんしながらも、やはり最後の一口はとっておくべきであったと後悔の渦が胸に湧き上がる美桜であった








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