西城家の花
花を手に取った熊はいつまでも
西城家との婚約が解消され、新たに火野家との婚約が決まった次の週末、許嫁同士の顔見合わせということで昔から何度も訪れてたことのある火野家の屋敷に両親とともに赴いた
昔からの顔馴染みということもあり、顔見合わせと言ってもただの食事会で、何の緊張感もないまま食事が始まると、幼なじみ同士である両家の当主は酒の力もあってか、二人とも上機嫌に話し込んでいた
一方、新たに婚約を結んだ当の本人たちは二人そろって黙ったままだった
美桜の新しい婚約者になった火野家の次男、与一は今回の婚約にまったく気乗りではないことは目に見えて明らかだった
目の前の少女は昔から兄の婚約者として接していたし、今更自分の婚約者だと言われても、女として見るなんて絶対に無理だと思ってもいた
そしてその少女も明らかにこの婚約を望んでいるというわけではないことは一目瞭然である
先ほどから生気が感じられないというか、普段の彼女ならきっと今ごろ散々文句をぶつけてきたであろうがそれもない
噂に聞いたところ、とある武道の名家の後継ぎ息子と婚約したものの、先方のほうから破棄してほしいと申し込まれたらしい
たぶんそれが原因なのだろうと、与一は机に肘を置き、頬杖をしながら小さくため息を吐いた
「…お前も可哀そうなやつだよな」
少女にだけ聞こえるようにぽつりと呟くと、案の定彼女はゆっくりと顔を上げた
「やっと兄さんとの婚約が解消されたのかと思ったら、すぐに他の男と見合いをさせられたのはいいがすぐに破棄され、そして最後にお前にまったく興味がない僕と無理やり婚約させられる…。考えるだけで惨めだな」
このぐらいキツく言えば、さすがに彼女もいつもの調子で怒るだろうと期待していた与一だったが、彼女の反応は思いもよらないものだった
「…お前、泣いてるのか…?」
「……え」
与一が突然そんなことを言ったものだから美桜は自分の頬を確認すると、確かに濡れていた
気付かぬうちに涙を流していたなんて自分でも驚きだった