西城家の花
大志との婚約が破棄になったと知らされた日から、美桜は生きる屍になったような気分だった
何をしてもまったくやる気が起きなくて、むしろそのまま消えてなくなってしまいたいほどだった
毎日考えることといったらもちろん大志のことだけで、でも今更彼のことを想っていたとしてももうどうにもならないのだと何度、心が引き裂かれるほどの胸の痛みに襲われたかなど覚えていない
心にぽっかり穴が開いたというのはまさにこういうことなのだなと喪失感に多少慣れ始めたころに、新たな婚約者である与一との顔見合わせが行われたのだが、美桜はずっと上の空だった
目の前にいる与一が見るからに不機嫌そうなのだが、そもそも彼の機嫌がよかったときなんてあったのだろうかと幼いころの記憶をぼんやりと辿っているときに言われた
『可哀そうなやつだよな』と
一瞬、誰のことを言ってるのだろうと思ったが、その次の言葉を聞くに、どうやら自分のことを言ってるらしい
確かに惨めなものだ
あれほど夢見た大志との結婚を、こんなにも早く打ち砕かれるなんて考えもしなかった
思い返せば、自分は最初から暴走しまくっていたのだなと自覚することが出来る
出会った当日に緊張と興奮で見合いの場を台無しにし、西城家の方、特に大志の母親、聖にはだいぶ迷惑をかけてしまった
その次の日からも、毎日のように大志の学校まで赴き、彼を待ち伏せする日々
飽きもせず毎日毎日、きっと迷惑だったのだろう
どんな気持ちだったのだろうか、好きでもない女に付き纏われるというものは
それなのに大志は一度も嫌な顔することなく、毎日流水の屋敷まで送り届けてくれていた
それどころか大志は美桜のつまらない話にもしっかり耳を傾けてくれて、ちゃんと返事をしてくれた
時折見せる穏やかで静かな笑みを見られたときはもう嬉しくて嬉しくて堪らなかった
あぁ、大志様、大志様
あなた様にとってわたしとのお見合いは迷惑なものでしかなかったのかもしれない
それでもわたしにとって大志様という存在は、何者よりもかけがえのない愛しい人
好きです、大好きです
大好きなんです、大志様
とめどなく溢れ出てくる大志への想いは収まることもなく、一筋の涙として美桜の頬を伝った