西城家の花
「…お母様?」
「…村本を、外で待機させています。あそこの戸口から外に出て、合流しなさい」
母の突然の申し出に、美桜は頭がついていかなかった
大事な見合いの席で、突然美桜が姿を消したとなれば大問題になるはずなのに、どういうことだと考えていると、母の手が美桜の頭に優しく触れた
「美桜、あなたは昔からどんなに気分が落ち込んでいても、外ではそんな素振りを見せずに気丈に振舞っていましたね」
それは、昔から母に厳しく、外ではどんなことがあっても淑女らしく振舞うことを教育されてきたからである
それはもう鬼の如く厳しいもので、少しでも気を抜くと、般若のように目を光らせている母に睨まれるので厭でも淑女の振る舞いが身に沁みついているのだ
だから今も大勢の人の前で涙を流してしまったことに叱られるであろうと思っていたが、何故か頭を優しく撫でられている
ますます状況が把握できないでいると、母の声が耳に届いた
「しかし、こと大志様のことになるとあなたはどうにも自分を抑えられないようで…」
「も、申し訳ございません…」
少し刺々しい声に、やはり怒っているのであろうと身を縮こませた
しかし、母は一向に怒らないどころか、さっきより優しい声で言ったのである
「それほど、大志様を想っているのですね。美桜は」
その言葉に美桜はゆっくり顔を上げた
優しい表情をした母は、外へと繋がる戸口を指差した
「さぁ、行きなさい。あなたの愛しい人の元へと。あとのことはわたしがなんとかします」
…しかし、美桜の足が動くことはなかった
いや、動けなかったのだ