西城家の花
火野家との婚約の話を承諾する美桜の姿を見たときは娘が可哀そうで、胸が苦しくて苦しくて堪らなかった
爺様の言うことは絶対だとしても、まだ17の娘にこんな仕打ちはあんまりだと、宏昌に抗議をしたものの、美桜を想う気持ちは宏昌も一緒で、でも爺様には逆らえないと自分たちの無力さに打ちひしがれた
毎日生気を失った美桜の姿を見るだけでもいたたまれない気持ちになって、どうにかして彼女の気を晴らそうとしても、結局全て無駄に終わる
娘は今でも大志を心の底から望んでいる、しかしもうどうすることも出来ないのだ
一瞬、美桜を拒んだ大志を恨んだりもしたが、彼が好き好んで美桜を傷つけたりする人間ではないということは一度しか大志に会っていない悦子でもわかる
それに毎日のように嬉しそうに大志の話をする美桜を見て、大志が美桜のことを大切してくれているということも覗えた
だからきっと何か理由があるのだ、美桜との婚約を破棄したことに
そうだとしても、破棄となった今それを確かめる方法はなく、そうこうしているうちに火野家との顔見合わせの日が訪れてしまった
案の定、美桜はずっと気落ちしたままで、普段なら幼なじみである火野家の次男、今回の見合い相手の与一と口を尖らせながら言い争いを始めるのだが、それもない
与一も美桜の異変に気付いたのか、何かを美桜に口走ったようだが、それに対する美桜の反応にはさすがの悦子も驚いた
泣いていたのだ、美桜が涙を流していたのだ
たとえ家族の前でも涙をあまり見せない美桜が泣いたことによって悦子の決心が決まった
どんなことがあったとしても、美桜を大志に会わせようと
幸い火野の屋敷に来る前から、色々と企てていて、あとは美桜の気持ち次第だったが、そんなもの必要なかった
結局は悦子自身の決意が足りなかっただけで、美桜の気持ちなどとうの昔に決まっていた
あとは美桜の意気地の無さに喝を入れ直し、彼女の大好きな人の元へと送り届けた
………さて、送り届けたのはいいものの、大変なのはこれからだと悦子はため息をついた
これから火野家の方々に美桜が急に姿を消した言い訳を考えなければならなかったし、爺様の命令に背くことになるのかもしれないのだから、覚悟を決めなければならない
きっと大目玉を食らうことは間違いない、今想像するだけでもおぞましい
しかし、美桜が幸せで、笑顔でいてくれさえすればそんなものへっちゃらだ
悦子は先ほどの会場に戻りながら、美桜の初恋成就を祈っていた