西城家の花






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一方そのころ、美桜との婚約を破棄した大志は子猫を胡坐をかいた膝に乗せながら、縁側でのん気に日向ぼっこをしていた





しかしこの日向ぼっこしている大志、というのは非常に珍しいことで、普段の大志なら週末は昼夜問わず稽古ばっかりしているからである





何か様子がおかしいというのは一目瞭然で、満はそんな弟の様子を後ろから眺めていた





原因は既にわかっている





先週まで順調だと思われていた流水家のご令嬢、美桜との婚約を大志自ら破棄したいと両親に頭を下げた





父はそれに憤慨していたが、珍しく母が強く出て、父に渋々大志の要望を呑ませた





あんな美少女との縁談などもう二度と来ないかもしれないというのに、何故大志がそれを破棄したのか満には見当もつかなかった





それに大志の話から、美桜は見合いの日からほぼ毎日のように大志を訪ねて行ってたらしく、今回こそ上手くいくかもしれないと喜んでいたのに、大志自身がそれを終わらせてしまったのだ





体格や怖い顔つきのせいで誤解されがちだが、大志は決して横暴なやり方で自身の要望を他人に強要したりはしない





ちゃんと道理と理屈のある理由を述べ、粘り強く説得するタイプなのだが、今回は要件が要件だったことにあまり理由を話したがらなかった





そんな大志を満は責めたりなどしない、というか弟の背中があまりにも悲壮感漂っているので、叱るのは少し可哀そうに思えた





だから、大志に婚約破棄をされ、あっさりと他の男とすぐ婚約を果たした流水家の令嬢には少し腹を立てていた






「風の噂で聞いたのだけど、本日火野の屋敷で流水のご令嬢と火野のご子息のお見合いが行われてるらしいのです」





「……」






大志から返事は来なかったが、腹の虫が収まらない満はそんなこと気にせず話を続ける






「こちらとの婚約が破断して、一週間で新しい婚約者様だなんて美桜様もたいそうなご身分で。でも、そんな移り代わりの早いお嬢様なんてあなたには不釣り合いだわ。大志は賢明な判断をしました。あのような娘、西城家の嫁には…」





「美桜殿を貶すのはやめてください!!」






さっきまで反応なんて見せなかった大志がいきなり声を張り上げたので、満は驚き、不自然に口を開けたまま固まってしまった






「…たとえ姉上でも、それ以上言ったら怒ります。それに彼女は、そのような女性ではありません。きっと西城との婚約や、新たな婚約だって彼女の意思ではないのかもしれません」






徐々に声が落ち着きを取り戻し、正常の大志に戻ったことに安堵したが、満はやはりと自分の考えに確信を持った






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