西城家の花
美桜との婚約を破棄した大志は見るからに落ち込んでいた
自分の表情などをあまり表に出さない弟だが、気付いたら今日のようにぼーっと明後日の方向を向いて、上の空でいるのだ
自分で断っていおいて、何故そのように気落ちしているのか満にはまったくの理解不能だったが、そのことによってある疑問が生まれた
そして先ほど、満が過度に美桜の悪口を言いすぎたせいもあったが、あの口ぶりや反応からすると確実にそれ以上の感情が大志から感じ、その疑問の解を得た
やはり弟は、大志は、美桜が嫌になって婚約を破棄したわけではないのだと
しかしそうなるとまた新たに疑問が湧いてくる
もし美桜が嫌になって婚約を破棄したわけではないのなら、どのような理由で大志は婚約を拒んだのだろうか
…実のところ、その理由は薄々気付いている満であったが、もしそうだとすると弟は本当に大馬鹿者である
満は大きくため息をつきながら、目の前で未だに猫とじゃれつきながら日向ぼっこしている弟を見て、彼に聞こえるかよくわからないギリギリの声でボソッと呟く
「望んだものは、声を出さなければ分からないものですし、手を伸ばさないと掴むことも出来ませんよ」
しかし大志に反応はなく、猫のんにゃーという鳴き声だけが聞こえ、満はまた大きくため息を吐いたのであった
背後にいる満が大きくため息を吐いた気配を感じた大志は少し憂鬱気になる
少しばかり放っておいてほしいのにここ数日、姉の満は屋敷にいる間、ずっと大志の後ろにくっついてくるので、居心地が悪くて仕方がない
姉が自分を心配しているということは痛いぐらい伝わってくる、しかし歳が10離れていても、大志は既に17、もうすぐ18になる立派な青年だ
昔のような感じで接しられても反応に困ってしまうぐらいだ
それに、大志は自ら美桜との婚約を破棄したことに後悔などしていなかった