西城家の花
なんかさっき後ろで言われた気がするも、まったくの見当違いもいいところだ
しかし、もし満の言う通り、あのまま婚約を破棄することもなく、美桜の手を引いていたら、きっと彼女は何の躊躇いもなく自分についてきたであろう
しかし
大志は今までの美桜の姿を思い出していた
美桜はきっと芯の強い女性なのだろう、家が結んだ婚約とはいえこんな大熊のような男にも愛想を振りまいてくれた
大抵の令嬢なら、大志の姿を見ただけで、怯えて泣き叫び、挙句の果てには逃げてしまうのはいつものことで、むしろ美桜のような女性は珍しかった
きっと内心は怯えていたのだろう、大志の前で、気丈に振舞っていたものの、美桜の時折見せる肩の震えや、瞳の潤いに大志は毎回申し訳なく感じていた
それに一度、美桜が道場に見学に来た時には、敦司の後ろに隠れて視線さえ合わせてくれなかった
驚くことに大志はそのことに酷くショックを受けてしまっていた
女性から視線を逸らされることには慣れていたはずなのに、ショックを受けている自分にも戸惑いを隠せなかった
しかしそれ以上に、これ以上美桜に無理強いをさせたくはなかったのだ
何度も言うが、彼女は強い女性だ
たとえ本望ではなくても、家のためならどんなことでも耐えられるような
だから、そのために両親に無理を言って今回の婚約を破棄してもらったのだが、どうやらそれは思った以上に大志自身にも相当大きなダメージを喰らわせていた
家族は勿論のこと、普段なら大志の気分なんかお構いなしに話しかけてくる学友たちも美桜がここ数日学校に訪れないことや大志の異変に何かを察したのか詳しいことは聞いてこず、なんか生暖かい視線を送られてくることが非常に気に入らない
敦司なんて会うたびに、『馬鹿、この馬鹿野郎!!阿呆!!すかぽんたん!!』等の罵倒を口にし、背中を叩いてくる
肉体的なダメージはほとんどなかったが、地味に精神にダメージが来るので、正直やめてほしかった