西城家の花
美桜の行動にぎょっと驚いたものの、後ろに池があったためこれ以上後ろに下がれなかった大志はたまらず声を上げた
『…お前、俺が怖くないのか…?』
その言葉にきょとんと目を丸くしていた美桜だったが、何がおかしいのかくすくすと笑いだしたのだ
『なぁに、もしかしてあなた熊さんみたいにわたしをぱくりと食べてしまうのかしら』
一瞬の間、美桜はくすくすと笑い続けていたが、見る見るうちに表情が強張っていき、慌てたようにオロオロと視線を泳がせ始めた
『ご、ごめんなさい、わたしあなたを傷つけるつもりであんなこと言ったわけじゃないの。だから、泣かないで…』
美桜に言われ、大志は初めて自分が泣いていることに気が付いた
そして気付いてしまったことによって、今まで抑えていて何かが堪えられず、今日初めて会う少女の前だと言うのに、大志は呻きながら涙を流した
もううんざりだったのだ
定期的に行われる見合いも、自分の姿を見て怯えてしまう見合い相手たちにも
そして
『ごめんなさいね、大志』
その度に、悲しそうに顔を歪める母の顔にも
そんな顔をさせてしまう自分にも、全部、全部、全部!!!
初めて熊みたいだと言われたのは何時だったからだろうか
大志だって人間なのだからその言葉に傷つかないはずなかったが、我慢するしかなかった
自分が招いてしまったことだったので文句も言えないし、それに人に自分の外見のことでとやかく言われる筋合いはないと思っていたからである
だから今まではなんとか堪えてきたが、さすがに限度というものがある
こう何度も目の前で怯えられたり、泣かれたりするとさすがに気が滅入ってしまう
それにその都度母が大志に謝ってくるのにも腹が立てっていた