西城家の花
そう思うとまた少し気落ちしてしまうが仕方がないことだ
大志自ら手放したのだ、今さら後悔したってもう遅い
それでも先ほど姉の満が言った、今日美桜が新たな婚約者に会うということに心が痛むぐらいは美桜に惹かれていたと自覚している
いや、きっと8年前のあの時から、大志はずっと美桜に淡い恋心を抱いていたのだろう
今となってはもう関係のないことだけどなと、膝の上に乗せている猫の顎を優しくくすぐると、気持ちよかったのかたまらずうにゃーと声を上げた
それと同時に満の従者が失礼しますと声をかけながら部屋に入ってきて、満の隣まで移動した
なにやら母屋で問題が起こったらしく、従者に耳打ちでそれを知らされた満の声が驚いて上擦っていた
後ろで満が立ち上がる気配がしたが、自分には関係ないことだと今度は猫の両手を掴みうにゃーんと体を伸ばしていると、満からすぐに戻ってくるからそこから動かぬようにと命じられた
本当にこの姉にとって自分はまだまだ子供に見えるのだなと大志は渋々首を縦に頷かせた
満が従者を連れて足早に部屋から出ると、数日ぶりの静寂が大志に訪れた
さてとと縁側から立ち上がるために、膝にごろんと寝そべっていた猫の両脇を掴み起き上がらせると、急に目線の高さが変わったことに驚いたのかぎゃーっと暴れまわり、大志の手の中から逃げ出してしまった
元々迷い猫だったからそのまま逃がしてもよかったのだが、興奮させてしまったせいでなにか悪さをしてしまうのが心配で腰をゆっくり上げていると、誰かがこちらに近づいてくる気配がした
もう満が戻ってきたのかとうんざりした気分で近づいてくる人影を見やると、そこにはここにいるはずのない人物が立っていた
「………美桜殿」
その人物の名を呼ぶと、彼女は泣きそうな瞳に笑みを浮かべながら、今にも大志に抱きつく勢いでこちらに向かってきていた
「大志様…!!」