西城家の花
何故美桜がここにと、頭が混乱している隙に美桜は大志のすぐ隣まで駆け寄ってきていた
ふと視線が合うと、暫くの間、美桜と大志は言葉も発さず、じっとお互いを見つめ合っていた
一週間ぶりに会った美桜は、やはり美しく、しかしどうしてだろうか最後に会った時より少しだけやつれたような気がした
それに美桜が着ている着物は袖がとても長く、装飾も華やかでとても普段着には見えず、大志は今日が美桜と彼女の新たな婚約者の顔見合わせの日だということを思い出す
「…美桜殿、今日は火野家との見合いの日では…」
知らぬ間に口に出た言葉が久しぶりに会えた美桜に対するものではなく、火野との見合いということで大志は自分が思っていたよりもそれが気がかりであったことに気付かされ、自分の器の小ささと引き際の悪さを思い知らされる
「そ、それは爺様…ではなく先代の当主様からの命で止む無く行われたものです。わたしの意思とは関係ありません!!」
大志の瞳をしっかりと見据え、力強く主張する美桜に大志は心の底から安堵した
しかし、だからそれがどうしたと大志の頭は冷静さを取り戻していく
それは大志との婚約だって同じようなものだ、結局は家のために仕方なく大志と繋がりを持っただけだ
美桜と会えない間、ひたすら物事を悪いほうに考えていた大志がこれまた卑屈な思い込みを自分に言い聞かせていたが、美桜の発言で全てが吹っ飛ばされた
「わたしが…、わたしが心から求めているのは大志様、あなた様だけです」
………………………………は?
美桜の爆弾発言に大志は一瞬彼女が何を言ったのか理解できなかった
しかし耳の奥に残っている美桜の声がゆっくりと脳に浸透していき、やっとその言葉を理解できた時、大志は自然に首を横に振っていた
そんなはずはない
大志は今までの経験から自分の容姿が一般的に女性に好まれないいうことは十分理解している
だから今までの見合いだって全て相手側に断られていたし、この先もずっと自分を受け入れてくれる女性など現れないと思っていた
そのような自分が、美桜のように美しい女性に求められるはずなどあってはならないのだ