西城家の花
その場にいる全ての人が美桜に注目している中、美桜は大きく息を吸った
「5つの時、華道の命ともいえる剣山で屋敷中の畳を穴だらけにして爺様にこっぴどく叱られましたわ。7つの時も、池の中を泳ぐ鯉を捕まえたくて、その時持っている中で一番高価な振袖を着ていたにも関わらず池の中に飛び込んで、翌日から高熱が出て起き上がれませんでしたし。それに未だに兄さまたちとかお菓子を賭けてほとんど毎日のように喧嘩をしてますわ。もちろん兄さまたちが病弱だと知っていますが、手加減は一切したことがありません」
今まで犯してきた悪事を包み隠さず急き立てるようにして告白する美桜に皆ポカーンとしていたが、美桜はそんなことを気にする余裕もなく続ける
「極めつけはこの間、お母様に寺に連れていかれ座禅をさせられた時に隙を見て、昼寝中の住職様の見事な坊主頭につい出来心で墨で絵を描いてしまったことですわ」
「美桜?」
隣から母の禍々しい声が聞こえ、美桜はギクッと肩を震わせた
実は一番最後に告白した、住職様の頭にお絵かきはまだ誰にも話していないことだったのだ
住職様にはもちろんその場で気付かれたが、とてもお優しい人で、母には黙っていてくれると、それどころか素晴らしい絵だから今度は頭ではなく紙の上に描いて送ってきてくれとまで言ってくれた
もちろん美桜はすぐに絵を紙の上に描き直して住職様に送り届けた
なのに先ほど美桜自らそのことについて口走ってしまい、母の怒りを後ろからまざまざと感じた美桜はさーっと血の気が引いた気がした
「道理であの時、住職様と何かコソコソとしていたのね。あの方は昔から美桜に甘くて、お菓子とかを貰っているのだと思ったのだけど、まさかそんな罰当たりなことをしていたなんて…」
徐々に低くなる母の声のトーンに右隣にいる父に助けを求めたが、今回は無理なのか力なく微笑み返された
「で、でも住職様とってもお喜びになられていましたわ。だからわたしちゃんと紙の上に描いたものを送って差し上げて…」
「ほほ、あなたって子は…。そんな言い訳で許されるとでもお思いで?」
「いだい。いだだだ、痛いですわ。とてもですわ!!」
人前にも関わらず怒りを露わにして美桜の頬をつねるということは、母の怒りは相当なものだと気付いた美桜は恐怖していた
もしかしたら今から大好きな大志とその家族の前でみっともなくお説教させられるのかと
元はといえば本来の美桜を知ってもらおうとして様々な悪事を告白した美桜の自業自得なのだが、それでも母がこんなに怒るとは思わないだろう