西城家の花
頬を抓られながら、どうかこんな自分を大志に失望されぬよう願いながらも、今にも飛んできそうな母の怒号に身構えていると
「はは、はははははは」
何処からともなく笑い声が聞こえてきたので、そちらに視線を向けると、大志が口を大きく開け笑っていたのだ
いつも見せてくれる穏やかで静かな微笑とは違う豪快な笑い方にもきゅんと胸が鳴った美桜は母に抓られている頬の痛みも吹っ飛び、大志を見つめていた
美桜だけではなく、突然の笑い声に驚いたのか、今や美桜ではなく大志に注目が向けられていた
それらの視線に気づいた大志は気まずそうに咳ばらいをして、未だに頬を抓られ続ける美桜に向かって言った
「すまない、つい堪えきれなくて…。随分と可愛らしい悪戯が得意なようで。しかし、心配することはない。そのような悪戯は、俺も何度もやらかしたことがある」
そして悪戯っ子のように口角を上げ、にやりと笑った
「そうだな…。まずは6つの時か、屋敷中の着物の帯を結んで、友たちと大縄跳びを遊んだことがあったな。あの時は母上と姉上のお気に入りのものも泥だらけにして随分怒られた。8つの時は父上が大事にしていた盆栽を稽古中に何度も割ってきたし…まぁそれは今もか。それに大事な客人に出すはずの菓子などをこっそりと持ち出したこともある。あぁ、それに坊主頭といったら、つい最近カツラ疑惑のある教師の真相を敦司たちと探ろうとしたら途中で気付かれてしまってな、教育指導室で3時間以上反省文を書かされた」
美桜のそれと張り合うように大志自らの悪事をつらつらと並べ話していると、その隣にいた大志の父の顔が渋くなっていく
「ほぉ…それは初耳だな。大志よ、もう少し詳しくその話、してみせよ」
地の底から聞こえてくるようなドスの効いた声に大志は巨体をビクッと震わせ、口を噤んだ
「おい、どうした。何故黙るんだ。さっきまで楽しそうに話していたではないか」
「いえ、その…父上に聞かせられるほど面白い話でもありませんし、それに今は流水家の皆さんもいることですし…」
「構わん。話せ」
「しかし…」
急に歯切れが悪くなっていく大志と、大志にも負けない巨体で彼を威圧する大樹を何事かと交互に見ていると、ゆるく抓られていた美桜の頬に激痛が走った