西城家の花





昔から武道の達人である大志に決闘やら申し込んでくるやつは結構いたのだが、そのたびに何故か敦司が『西城大志』だと誤解されることが多かった





理由は大志が今のようにただ突っ立ているだけで相手の対応をするのが敦司だったためであるからだ





今回も敦司は自分が大志ではないことを告げると、男は敦司の視線を辿るように本物の大志に目を向けると、息を呑んだ気配がした





西城の大熊という名はよく耳にしていたが、まさか本当に熊のように大柄で、威圧的だとは思ってもいなかった男が圧倒されていると、大志が低い声で問うた






「決闘とはどういうことだ?」






その声に一瞬だけビクッと男は肩を震わせたが、すぐさま調子を取り戻し、今度こそ大志を指差した






「西城大志、お前は今この女に騙されて我を見失っている状態だと思われる。しかし心配することはない、この僕がお前の目を覚まさせてやろう。僕とお前が決闘して、もしお前が勝ったら僕はこのまま引き下がろう、だがもしお前が負けたら、美桜との婚約をなかったことにしてもらおう」





「なっ…」





「まったく道理がなっていませんわ、与一!!あなたの言っていることはなにもかもめちゃくちゃよ!!」






あまりにも辻褄が合わない言葉に思わず絶句してしまった大志だったが、男の言葉に憤った美桜が反撃する






「多少手荒な真似をしていることは自覚しているが、それでも西城大志をお前から救うにはこれしかない」





「だから、あなたはいったい何を勘違いしているの!?わたしが大志様を欺くなんて…どこからそんな吹聴を…!!」






力強く男に言い放つと、美桜は大志の元へ歩み寄り、自分の小さな手を大志の大きな手に添えた






「大志様、あのような戯言に耳を傾けないでくださいな。与一は頭が弱い子でして、大志様が彼の虚言に付き合う道理などありませんわ」






後ろから『頭が弱いってどういうことだ、おい!!』という男の叫び声が聞こえたが、美桜はそれを無視し、大志を懇願するように見上げる





しかし大志はその願いを聞き届けるなく、男に向かって返事をした






「いいだろう、その申し出、承ろう。…だが」






大志は自分の手に添えられた美桜の手をぎゅっと握る






< 71 / 115 >

この作品をシェア

pagetop