西城家の花
「それで、いったいどのようにして決闘すると?」
やっと自分に注目が戻った男は腕を組み、ふっふふと鼻で笑った
「そんなの決まっているだろう!!生け花で勝敗を決めようじゃないか!!」
「ちょっと待ちなさい!!あなた、どれだけ卑劣な人なの。仮にも花の家元である火野家の次男であるあなたが生け花で勝負をもちかけるなど…」
火野という名前に聞き覚えがあった大志の眉がぴくっと動いた
その名は、流水家と並ぶ、江戸時代から続いている由緒正しき生け花の名門で、しかも大志と婚約を破棄した際に美桜が次に見合いをした相手と同じだったので大志が反応しないわけなかった
「だったらなんだ、僕がこの大男と組み合えっていうのか!?無理だろう、一瞬にして捻り潰されるわ!!」
「当り前ですわ!!あなたのような貧弱な人が、鍛えに鍛え抜かれた大志様に適うはずありません。ですが、それでもお互い違う土俵で勝負するとはいざ知らず、自分の得意分野で勝負を持ち掛けるなど男して恥ずかしくないのですか!!」
「うぐっ…」
美桜に正論で反撃され、ぐぅの音も出ない男は押し黙ると、追い打ちをかけるように美桜が畳みかける
「もし、そこまで言うのなら、流水流本元が長女、この流水美桜があなたの相手になってもよろしいのですよ。火野流本元が次男坊の火野 与一様?」
やっと本名が公表された与一は、その言葉にあからさまに顔を引くつかせる
実は与一は生け花において美桜に一度も勝ったことはない。さすが生ける伝説とまで謳われた流水総一郎の孫であるだけあって二人の兄たちには劣るも、美桜の生け花の才能は天才的だ
いくら火野家の息子だからといっても常人よりやや花の知識があるしかない与一がそんな彼女に勝てる見込みなど微塵もない
「こ、これは男同士の戦いだ!!お前が出しゃばる場面ではないぞ」
「大志様とわたしは何れ夫婦になるのですから、一心同体と言っても過言ではありませんわ。それとも、わたしに勝てないからと言って怖気ついてるわけじゃありませんよね?」
再び幼なじみ同士の二人のいがみ合いが始まってしまい、またかよという空気が見物客から流れ出したとき、救世主が現れた