西城家の花




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おかしい、絶対なにかがおかしい





頭でぬぐえ切れない疑問を抱えながら、与一は芝生の上のカードの山と、自らの手札を凝視していた





本来なら何か他の内容で美桜の婚約者である西城大志と対決していたはずなのに、あれよあれよと流されていたらいつのまにかどこの誰かもわからんやつらと大富豪をしていたのだ





そもそも与一が大志を訪れて、決闘を申し込んだのはあの日、あの不本意極まりない見合いの席で美桜が突然泣き出したりなんかしたからだ





普段なら与一の言葉なんかで涙を見せるはずもない美桜が、目の前で泣き始めたもんだから与一はそれほどまで西城大志という男に捨てられたことがショックだったのかと驚いた





だがその時美桜は既に西城大志に婚約を破棄されてしまった身、もうどうすることも出来ないだろうと本気で幼なじみを哀れんだ与一は、今度会ったらどのような言葉を美桜にかけようか悩んでいた





しかし、美桜が与一との婚約から逃亡した数日後、なんと美桜は再び西城大志と婚約を結んだのである





あまりにも予想外すぎる展開に初めは美桜は失恋せずにすんだのかと安堵したが、よくよく考えてみるとあまりにも不可解すぎる西城大志の行動に疑問を持ち始めた





というかこの一度身を引いて、いつのまにか意中の相手を手に入れるというパターンは与一の兄が女性相手によく使っていた手法であり、まさか西城大志もあの女たらしのような男ではないのかと危惧した与一が、西城大志がいったいどのような男か見極めるためにやって来たというのに





本当、どうしてこうなった





そもそも女性経験が皆無である大志がそんな高度なテクニックを使えるはずもないことに与一は知る由もなかった





釈然としないまま与一は再び自分の手札に目を向ける





与一の手札に残されているのはスペードの2と、ダイヤとハートのクイーンの三枚だけで、2で上がることがルールによって禁止されている今回の大富豪でこの手札で上がるのにはまず2で山を切り、そのあと二枚のクイーンを出せば上がりだ





いつのまにか目の前のゲームに夢中になっていた与一は緻密な計算を立てながら自分のターンを待っていた





他の参加者たちの手札もさほど多くはない、次で2よりも大きな数さえ出なければ、与一の勝利は確実だとほくそ笑んでいると






「…それでは、行きます!」






参加者の一人であるであろう女性の声とともにカードを山の上においた






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