西城家の花
水も滴るいい大熊
どうしましょう…困りましたわ…
とある日の放課後、激しく振り続ける豪雨の中、美桜は一人、人気のない民家の屋根の下に佇んでいた
今日も今日とて、愛しの大志の元へ向かおうと、最後の授業が終わるたびに校舎から飛び出した
既に日課になっていたことなので、普段美桜の送り迎えを担当する運転手、村本の迎えも最近はなくなったのだが、今日は珍しく見慣れた車が校門の前に止まっていたので、なんとなく近づいてみると、村本が車の中から現れたのだ
話を聞くに、今日は近年稀にみる大豪雨と天気予報で予報されていたので、母に美桜を迎えに行くように命じられたらしい
つまりは、今日は大志に会いに行くなと
しかしそんなの美桜が聞き入れるはずもなく、嫌だと駄々をこねると、困り果てた村本は仕方なく流水の屋敷から持ってきた美桜の傘を差しだした
少しでも天気模様が悪くなったらすぐに引き返すようにと念を押して、村本は帰っていった
確かに空は灰色の雲に覆われていて、すぐにでも雨が降りそうな雰囲気だが、傘があるのなら平気だろうと美桜は傘を握りしめ、すぐさま大志の元へと向かった
途中からぽつりぽつりと雨が降ってきていたが、このぐらいならまだまだ大丈夫と村本の忠告を無視して傘を差しながら歩み進めていたのだが、徐々に雨の音が強くなり、終いにはバケツから水がひっくり返ったような土砂降りになっていった
さすがにこれでは傘を差していたとしても前に進むことが困難だと判断した美桜は、なんとか雨宿りが出来そうなところを探し当て、雨が止むまで少し休ませてもらおうと思っていたのだが…
雨が止む気配がまったく見えないのである
美桜がこの場所で雨宿りを始めてから、既に30分以上経っているのだが、土砂降りの雨は一向に弱まる気配がなく、むしろどんどんと悪化してるように見える
このままでは大志に会いに行くどころか、今日無事に屋敷に戻れることも怪しくなってきた
しかもさらに不幸なことに、今美桜がいる場所は普段大志との帰り道に使う道ではなく、少しでも早く目的地に着くために美桜がよく使う近道であるため帰宅途中の大志と巡り合うこともない
もっと不幸なことに、美桜は携帯電話というものを持たせてもらっていないので、誰かに連絡して迎えに来てもらうことも不可能だし、この大雨のせいで人が通る気配もまったくない
完全にその場から脱出する手段を全て絶たれ、詰み状態になってしまった美桜はこんなことになるぐらいだったらちゃんと村本の、いや母の言うことを聞いて、大人しく屋敷に戻っていればよかったのだと後悔し始めた
昔から目の前のことに集中すると、他人の忠告はおろか、周りのこともまったく見えなくなってしまう美桜はたびたびこんな風に因果報復、自業自得というような状況に陥りやすい
その度に困り果てては次は絶対にするもんかと反省するのだが、ひどい鳥頭なので次の瞬間全てのことを忘れてしまうのも美桜の悪いところで、美桜自身も何とかしたいと対策を打つのだが、結局は鳥頭なのでそれすらも忘れてしまうのだ
しかし今までは周りに人がいたので美桜が困っていたとしても誰かしら助けを出してくれるのだが、今回は周りに誰もいないことで、本気で困っていた