西城家の花






「…で、ここで立ち往生を喰らっていたというわけか」






散々泣いた後、なんとか気持ちを落ち着かせた美桜は泣いて赤くなった鼻をすんすんとさせながら大志に人気のない民家の屋根の下で一人寂しく雨宿りをしていた経緯を説明した





大志とはいうと、大雨で今日は美桜が訪れることはないなと判断すると、傘を持っていないにも関わらず猛ダッシュで家路に着こうとしていたと話してくれた





衣服を濡れるのも厭わず豪雨の中を走り抜けていくなんてさすが大志様、素敵と心の中で大志を絶賛しながら、美桜はとあることを聞いた






「でも、大志様は何故この道を?いつも使う道とは違いますよね」





「あっ、いや…この道はその…普段使っている道よりも時間が短縮できるので、一人の時は殆どこっちを使っているんだ」





「……それならばわたしと帰る時もこちらの道を使えばよろしいんじゃないでしょうか?」





「…まぁ、そういわれたらそうなのだけど…」






いつもならすぐに返答するのに、何故か言葉を濁らせる大志に疑問を抱いた美桜の視線に耐え切れなくなった大志は、観念したかのようにため息を吐いた






「その、少しでも美桜と長く共にいたかったからわざと遠回りをしていたのだが…」





「まぁ!」






思いもよらない答えが返ってきて、しかもそれが予想以上に嬉しくて、美桜は頬が熱くなるのを感じた






「もし、美桜が望まないのであればこれからはこの道を使って帰ることに…」





「いいえ!これからもたくさん遠回りをしましょう!なんならもっと遠回りてもわたしは全然構いませんわ」






美桜の答えに安堵した大志がホッとしたように小さく微笑むと、美桜の胸はきゅーんと締め付けられ、原理はよくわからないがなんだか体の底から温かくなってきた





雨は未だに激しく降り続いてるし、気温だって全然高くないのに、不思議と一人で不安な状態で雨宿りしてる時よりも隣に大志がいるだけでずっと温かく感じられた






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