西城家の花
大志と一緒なら、ずーっとこのまま豪雨の中にいてもいいとさえ錯覚させられるのだが、さすがに物理的に無理があり、心はポカポカしているはずなのに体は寒さで震えている
さすがにこのままでは駄目かと大志と二人で如何にしてこの人気のない民家の屋根の下から脱出しようかと模索しているとき、不意に美桜は自分の手の中にある傘に視線を落とした
風も激しく吹き荒れる中、絶対に使い物にならないのだが、何もないよりはマシかと思い、美桜が何気なく傘を開く
ボキッ
すると何かが折れる音がして、視線を少し上げると、そこにあるはずの軸から上にかけての傘本体が跡形もなく消えて、美桜の手の中に柄の部分だけが虚しく残されていた
どうやら強風によって持っていかれたようで、美桜のお気に入りのピンク色の傘が道端で激しく転げまわる無残な姿が目に映った
「…………」
お気に入りの傘の無残な姿を目の当たりにした美桜は若干気落ちしてしまい、無言で風の流れに乗って転がる傘を視線で追っていると、隣の大志に気の毒そうに尋ねられた
「…取ってくるか?」
「いえ、良いのです…。無暗に開いてしまったわたしの責任でもありますし…、それにたぶんあれを手元に戻したところで元の形に修復できるわけではありませんし」
「そうか…」
そこからなんとも言えない微妙な空気が流れてしまい、暫く二人無言で傘の行く末を見守っていたのだが、突風により空へと舞っていたのを最後に傘は二人の目の前から姿を消したのであった
中学校の時から愛用していた傘の最後の姿を見届けた美桜は胸が少しだけ悲しさで疼いたが、今こんな状況で感傷に浸っている暇はないと大志の方を向くと、いつのまにか制服の上着を脱いでいた大志が丁寧にその上着を折り畳んでいた
いったい何をしているのだろうと不思議に首を傾げたが、濡れたワイシャツから透けて見える大志の筋肉に目を奪われた美桜は一瞬にしてそんなどうでもいいことは頭の中から排除した
ぴたりと大志の腕に張り付いたシャツから透けて見える美しく盛り上がった両肩の三角筋と二の腕あたる上腕二頭筋にうっとりと目を細めると美桜はたまらずほぅとため息をつく
「少し冷たいと思うが、我慢してくれ」
「えっ…、ぴゃっ!?」
筋肉に夢中で夢心地でいると、頭上から大志の声が聞こえ、反応すると、頭の上からヒヤッとした冷たいものを被せられる