西城家の花
何を被せられたのかとか、何故被せられたのかとまったく今の状況を理解していない美桜に大志は更なる追い打ちをかけてくる
「すまない、少しだけ辛抱してくれ」
謎の断りを美桜に呟くと、大志の片腕が美桜の体を両膝から持ち上げ、もう片方の腕を背中に添えて体勢を整えると大志はゆっくりと立ち上がった
急に目線が高くなり、いつも見上げているはずの大志の顔が真横にあることで、美桜はやっと自分が大志に抱きかかえられていることに気付く
しかも夢にまで憧れたお姫様抱っこというもので、嬉しさと同時に込み上げてくる羞恥心に耐え切れなくなり、美桜は真っ赤になった顔を隠すように両手で顔を覆った
「出来るだけ美桜に雨水が当たらぬように注意を払うが、少し衣服などが濡れてしまう恐れがある」
羞恥で顔が上げられない美桜とは裏腹に淡々とそう告げる大志は、美桜を抱きかかえる腕にぐっと力を込める
そこでやっと大志の意図を理解した美桜は少し恥ずかしいが、躊躇いがちに大志の太い首に手を伸ばした
ぎゅっとしがみついた際、首元から汗や石鹼やらの香りが入り混じった大志特有の匂いが鼻をかすめ、先ほどから激しく波打つ鼓動が更に加速していく
出来ることならずっとこうしていたいが、今はそんな場合じゃないとなんとか正気に戻った美桜は彼女の様子を窺っている大志と目を合わせる
「構いませんわ。だって、大志様が雨水から守ってくださるのでしょう」
ふわりと微笑んで見せると、大志はそれに答えるように目を細め、そしてすぐさま真剣な眼差しを前に向けた
やっぱり大志様、素敵…!と大志の横顔に見惚れていると、風が切るような速さで美桜を抱える大志が豪雨の中を走りだした
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