西城家の花





それから数分後、西城家の屋敷の玄関に全身ずぶ濡れの大志と、大志の制服の上着を頭から被せられ、抱えられている美桜、二人の姿が現れた





近年稀にみる豪雨の中、さすがに美桜を抱えながら流水の屋敷まで送り届けられないことを判断した大志は比較的に近かった西城の屋敷まで美桜を連れ帰ったのだ





ずぶ濡れの大志はともかく、突然の美桜の登場に驚いた出迎えの使用人たちが大慌てで大志の姉である満と、母の聖を呼びに行くと、二人はすぐに奥の居間から現れ、美桜と大志の姿に目を丸くさせた






「み、美桜様…、いったいどうして…。大志、早く美桜様を下して差し上げなさい」






聖が慌てたようにわたわたと大志にそう催促すると、大志は言われた通りゆっくりと美桜を地面へと着地させた





美桜が名残惜しそうに大志の首元から腕を引っ込めると、今度はその腕をぐいっと満に引っ張られる






「こんなにお体を冷やしてしまって…。誰か、いますぐ温かいものを用意してください。ささ、美桜様、早くお上がりなってください」





「は、はい…」






満の勢いに咄嗟に返事してしまった美桜が外履きを脱ぐと、後ろから誰かに背中を押され、ぐいぐいと無理やり足を進めさせられる






「あ、あの…」





「早くお召し物を替えないと、風邪を引いてしまいますわ」





「で、でも大志様の方がわたしなんかよりもずっと濡れて…」






体の大きな大志に抱えられ、頭からすっぽりと大志の制服の上着を被せられたおかげで、美桜は豪雨の中でも奇跡的にほとんど濡れることはなく、足元が少しだけ冷たいが、それ以外はほぼ無事である





そんな美桜とは対照的に大志は本当にずぶ濡れで、突風が何度も吹いてきたものだから、髪も原型が留められていないほど無残にもぐちゃぐちゃになってしまっていた





しかし整えられたいつもの髪型とは違い、無造作になっていく大志の髪にも美桜は胸がきゅんきゅんさせられっぱなしだった






「いいんですよ、大志の心配なんて。あの子は阿呆だから、どんなに体が冷えても風邪なんて引かないんですよ」





「そうねぇ。あの子はお父様と一緒に雪が降るような寒い日でも外で、上半身裸で乾布摩擦してるような子だからあのくらいなんともありませんわ。そういえば、あの子が最後に風邪を引いたのは何時だったかしら…」





「えぇ…」






美桜の心配とは裏腹にまったく大志のことなんか気にも止めない彼の家族に驚きつつ、後ろにちらりと視線を向けると、そんな二人の反応に慣れっこなのか特に気にすることなく使用人に荷物を預ける大志の姿が目に入ったが、廊下の曲がり角を曲がってしまい、すぐに見えなくなってしまった






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