西城家の花
大志を心配するも、衣裳部屋へと連れ込まれ、さほど濡れていない制服を剝がされると、何故だが瞳をキラキラさせた満と聖に次から次へと様々な柄の着物を勧められる
「やっぱり美桜様は何をお着になってもお似合いだわ。特に花柄の生地のものがよく映えるわ」
「やだ、お母様。花柄なんて子供っぽい。美桜様ももう大人の女性なのですから、このような上品な色合いの無地でも美桜様の魅力を引き立たせるのには役不足ではないはずよ」
「あら、でもその色はちょっと地味すぎない?美桜様は顔立ちがはっきりしているのだから、もう少し華やかな方が…」
「顔立ちがしっかりしてるからこそ、ごちゃごちゃした柄で飾らずに控えめな色のほうが美桜様自身の魅力が際立つのです!!」
自論をぶつけ合いながらも、人形のお着換えごっこを遊ぶようにきゃっきゃと声を弾ませる二人に翻弄される美桜であったが、普段着れないような着物を目の前にすると、自身の胸のときめきに逆らえずついつい着せられてしまう
男兄弟たちに囲まれているせいで母親以外の女性とこのようなファッションショーみたいなことを経験したことがなかった美桜は少女のように瞳を輝かせる二人に戸惑っているものの、内心では嬉しさを隠せずにいた
散々いろんな着物に着替えさせられた美桜は、結局は薄い桃色の着物に、桜の花がさりげなく描かれている同じ系統の色の帯という満と聖、二人の意見に沿ったものに身を包んだ
美桜のお着換え会が終わると、ずっと外で待機していたのか丁度いいタイミングで使用人が部屋に入ってきて、温かいお茶と綺麗に飾られた茶菓子を人数分運んできた
温かいお茶を口に含むと、流し込んだ胃からぽかぽかと体が暖まっていき、やっと一息つけた美桜は続けざまに茶菓子をぱくりと口に運んだ
大好きなあんこの甘みが口いっぱいに広がり、幸せな気分に浸っていたから、満と聖がにこにこしながらそんな美桜の様子を眺めていることに気付けずにいた
自分の分の茶菓子を綺麗に平らげ、お茶も飲み干すと、ふぃーと変な声が口から出てしまい、美桜は慌てて口元を覆った
そこで初めて満と聖に笑顔で見つめられていたことに気付いた美桜は肩を縮こませながらも背筋をピンと伸ばした
「ご、ご馳走様でした。色々とお世話になってしまい、申し訳ありません…」
「あらいやだ、気にしないでいいのよ。わたしたちは美桜様のお姿を見られるだけでも嬉しいんですもの」
「本当にそうね。どんなことしても可愛らしいなんて…、未だに美桜様のようなお美しい方があの大志に嫁いでくれるなんて信じられないわ」
「美桜様、うちの大志が迷惑をかけていませんか?やんちゃの子ですから、美桜様に無理をさせているのではないかと心配になります」
次々とかけられる言葉に呆気にとられながらも美桜は首を横に振る