西城家の花





実のところ、美桜は大志の部屋に入ってみたいと勢いで言ったものだから、そこでいったい何をするのかということはまったく考えていなかった





普段なら美桜がしゃべりたおすのだが、いつもとは違う場所で緊張感もあるため、頭の中が真っ白で何を口にしたらいいのかまったくわからない





そんなとき、突然美桜の頭に浮かんできたのは先ほど大志が放った衝撃的な言葉、『肌を合わせる』というフレーズで、一瞬にして頬が熱くなった





そんなつもりで大志の部屋に訪れたつもりではないことは満に言った通りだが、しかし二人っきりになったということはそいうこともありえなくない





大志に心を奪われたその日から、身も心も大志に捧げると決めている、出来ることなら初めては結婚初夜でと夢見る美桜だがもし大志が望むのなら今ここで純潔を捨てるのもやぶさかではないと大志の様子を窺うようにそーっと視線を上げる





するとそこには眠たそうにうつらうつらと頭を前後させ、閉じかけているまぶたを必死に開けようとする大志の姿が目に映った






「…あの、大志様?」





「………………………」





「大志様」







一度目の呼びかけに反応がなかったため、二度目は少し大きな声で呼ぶと、大志の巨体がびくりと揺れる





一瞬寝かけていたのか、慌てたように顔を起こすと、何が起こったのかわからず目をぱちぱちと瞬かせていた





いつもとは違う、少しおとぼけな様子の大志が愛らしくて、美桜は思わず笑ってしまった







「眠たいのですか?」





「…少しな。すまない、せっかく美桜がいるのに…」





「いえ、お気になさらず」






大志が眠くなるのも無理はない





なにせ大志は豪雨の中、雨水や風に体をさらされながら、美桜を抱え、突っ走ていたのだから疲れないはずがない





しかも大志は風呂上がりで体温が上がり、眠気が猛烈に襲ってきているに違いない






< 97 / 115 >

この作品をシェア

pagetop