溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
1.恋人契約(仮)



 頭が重い。全身だるい。途中から記憶がない。ゆうべ調子に乗って飲み過ぎたみたいだ。
 部屋の中はまだ薄暗い。ちょうど夜が明けたくらいだろうか。異様なほど眠いのに、どうして飲み過ぎた翌朝って早く目が覚めてしまうのだろう。

 まだ寝てても大丈夫だろうけど、アラームセットしたっけ? そんなことを考えながら、ふと思い出した。今日は土曜日。休みだ。

 よし。心おきなく二度寝しよう。そう思って寝返りを打ったとき、誰かの腕に抱き抱えられていることに花梨(かりん)は気づいた。

 ゆっくりと目を開く。目の前では同期のイケメンが極上の笑顔で挨拶をした。

「おはよ」

 あぁ、眩しすぎる。やっぱこいつ、顔だけは最高だわ。こんな至近距離で拝めるなんて眼福眼福。
 全くの平常心で花梨は内心ガッツポーズをする。

 いや、顔だけじゃなくて新條貴陽(しんじょうたかひろ)は仕事もできるし性格もいいし、気が合うから気楽でよく一緒に飲みに行ったりするし、友達としても最高。それでゆうべも気楽に飲み過ぎちゃったらしい。
 ただし、こいつには女にとって友達以上にはなれない致命的問題点がある。——という噂。

 記憶が飛んでるので、とりあえず状況の説明を求める。

「新條? なんで?」
「ここがオレんちだから」

 なるほど。どうやら酔いつぶれて彼の家に泊まったらしい。
 花梨は新條の腕からすり抜けて体を起こした。

「あぁ〜一緒に寝ちゃったのね」

 髪をかきあげながらため息をつく花梨に、新條は不満げな声を漏らす。

「ちょっ……! リアクション薄すぎじゃない? ゆうべのこと覚えてないの?」
「覚えてないけど、なにもないでしょ? あんたゲイだし」

 これが彼の致命的問題点。
 容姿も性格も仕事ぶりもいいし、おまけにどこかの御曹司だと言われているので、社内だけでなく取引先の女子にまで大人気なのに、一歩を踏み出す女子は少ない。

 新條本人はゲイ疑惑を肯定も否定もしない。けれど女子にはそっけないくせに、男子にはスキンシップ過剰なほど愛想がいいので、疑惑は信憑性を帯びて囁かれていた。


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