溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
すっかり意気投合する野口くんと田辺さんをスルーして、新條は席を立った。
「花梨、田辺さんにシステムの起動方法や操作手順を教えてあげて。北斗は彼女のマシンにシステムをセットアップして」
「はーい」
それぞれ返事をしながら席を立ち、新條に続いて出口へ向かう。すると田辺さんがまた新條に声をかけた。
「あの、新條さん」
「まだ、何か?」
新條が立ち止まって振り返る。みんなも立ち止まって田辺さんを見た。今度はどんな不思議発言かと固唾を飲んで見守る。そんな周りの様子を気にも留めず、田辺さんはニコニコしながら言った。
「新條さんって、みんなを下の名前で呼ぶんですね。私のこともあんずと呼んでください」
「いや、君とはまだそんなに親しくないから」
電光石火の氷対応。マシンルームはサーバが熱暴走を起こさないように空調が低めに設定されているが、さらに五度くらい下がったような気がした。さっきは何気にフォローしてくれた野口くんも、この冷気で固まっている。
ここは自分がフォローしなければならないと花梨は思った。こんなことで田辺さんがリーダーの新條を敬遠するようになったら仕事に支障を来す。
花梨が口を開きかけたとき、意外にも田辺さんがにっこり笑って頷いた。
「それもそうですね。私も早くフルーツバスケットの一員として認めてもらえるように頑張りますね」
「うん。頑張って」
にこりともせずにそう言って、新條は部屋を出ていった。花梨はホッと胸をなで下ろす。野口くんもホッと息をついていた。
田辺さんが鋼のメンタルでよかった。ていうか、不思議ちゃんには新條の言動が一般人とは違うように見えているのかもしれない。
とはいえ、新條の噂や他の女子社員からの風当たりについては説明しておく必要があるだろう。彼女も間違いなくやっかみの対象になるだろうから。
なにしろ彼女は見た目がふわふわとしてかわいらしいから、男勝りで気の強い花梨より標的にされそうな気がする。
「じゃあ、野口くんがシステムをセットアップしてくれている間に私のマシンで説明するわね」
「はい。よろしくお願いします」
元気に返事をする田辺さんと一緒に、花梨も部屋を出て自席へ向かった。