溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
3.策士、策に溺れる
自宅にいるのに、なんだか落ち着かない。日曜日の昼下がり、いつものように座椅子に座って録画しておいたドラマを見ているのだが、うしろで部屋の奥にあるベッドの上に新條が寝っ転がっているからだ。
一緒にドラマを見ているわけではない。持参した本を読んでいる。花梨にはおもしろくなさそうに見えるコンピュータ関係の分厚い専門書だ。
金曜日の夜、会社の帰りに新條と一緒に夕食に出かけた花梨は、またしても週末デートのお誘いを受けた。応じればまた疲れ果てる気がする。
かといって、用事があるとウソをついて断るのも限度がある。それで新條の機嫌を損ねて、付き合っていることを公表されてはたまらない。
だから休みの日は出かけるより家でゴロゴロしているのが好きなのだと正直に説明した。呆れて恋人契約を解消されることを期待したのに、意外にも新條はにっこり笑って頷いた。
「確かに休みの日はゆっくりしたいよね。いいよ。花梨は家で自分の好きなことしてて」
あまりにもあっさりと承諾されてちょっと拍子抜けする。穏やかな週末が戻ったことには安堵するが、これって契約前と変わらないんじゃないだろうか。
会社では同僚として一緒に仕事をして、時々夕食を一緒にして、休みの日はそれぞれ自由に過ごす。それでどうやって彼が豪語したように「欲しい」と言わせるつもりなんだろう。
花梨が内心首を傾げていると、新條は笑顔のままで続けた。
「でもオレは花梨と一緒にいたいから、オレが花梨のとこに行くよ」
「本当に一緒にいたいだけ? なにかよからぬことを考えてるんじゃないでしょうね」
眉をひそめて勘ぐる花梨に、新條は邪気のない笑顔でサラリと言う。
「よからぬことしか考えてないけど、そこは約束だから花梨がいいって言うまで待つよ。でも一緒にいたいんだ」
毎日会社で一緒に仕事をしているのに、この上休みの日まで一緒にいたい気持ちが花梨にはわからない。目覚めちゃったらそういうものなのだろうか。
客扱いしなくても、放置していてもかまわないと言うので、渋々承諾した。
言われたとおりに放置して自分のやりたいことを勝手にやっているが、やはり他人が同じ部屋の中にいるのは落ち着かないものだ。