溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
聞いてみようと思ったとき、そばに置いていたスマホがアラームを鳴らした。花梨はあわてて音を切る。
「わ、びっくりした。なんか予定?」
「違うの。飲み頃合図。淹れてから十二分が私の飲み頃温度なの。カップまで温めたら十五分」
「細かいね」
「みんな勘違いしてるけど、猫舌ってぬるいのが好きなわけじゃないのよ。許容できる温度の上限が熱いの平気な人より低いだけなの。誰もがぬるいと感じる人肌の温度とかは猫舌にもぬるいの」
「へぇ、そうなんだ」
感心して目を見張る新條の隣で、花梨はようやくカップに口をつける。飲み頃温度になっているとは思うが、それでもつい癖でフーフーしてしまった。
紅茶を一口飲んで、さきほど聞こうと思っていたことを改めて尋ねる。
「ねぇ。一緒にいたいだけって言ってたけど、こうやってお互いに好き勝手な事してて、楽しい? 退屈じゃないの?」
「別にはしゃぐような楽しさはないけど、プライベートの花梨が見られてそれなりに楽しいよ」
「ちょっと! じろじろ見ないでよ」
「じろじろは見てないよ。時々見てただけ。でも、花梨はあまりくつろげてないみたいだね」
またしても、するどい。バレていたことは癪だけど、花梨は平然と言い返す。
「当たり前でしょ。よからぬことしか考えてない人と密室にふたりきりなんだから」
「ははっ。それもそうか」
新條は悪びれた様子もなく楽しそうに笑った。
「でもさ、だったらどうしてわざわざオレの隣に座ったの?」
ドキリと心臓がはねる。意地悪な笑みを浮かべる新條を見れば、よからぬ考えを巡らせていることは容易に想像がつく。だがそれも計算の上だった。花梨は冷静に対応する。
「ここがベッドだからよ。だからそれを渡したの。ベッドの上に紅茶をこぼしたりしないでしょ?」
「なるほど、考えたね」
なに、その余裕の笑み。
花梨の方がうろたえていると、新條が距離を詰めてきた。