溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
「でも詰めが甘いかな。自分の猫舌を考慮に入れるべきだったね」
そう言って持ったマグカップを逆さまにして見せる。
やばい。逃げ出したいのに、いきなり立ち上がったらそれこそ紅茶をこぼしてしまう。
花梨が動けずにいると、新條はさらに距離を詰めてきた。
「花梨が飲み頃温度を待ってる間にオレは全部飲んじゃったよ」
マグカップを床に置いて、新條は両手で花梨の頬を包み込む。
「私はまだ残ってるから!」
「うん。だから、こぼさないようにじっとしてて」
上向かされた視線が、間近に迫った新條のきれいな顔に釘付けになる。眩しすぎて、堪えきれずに目を閉じた瞬間、唇が重なった。
ついては離れ、愛おしげに何度も繰り返されるキスに花梨のドキドキは止まらない。
優しくて甘いキスに翻弄されながらも不思議でしょうがない。
こんないい男が、どうして自分のような平凡女に執着するのだろう。新條なら、もっといい女がいくらでもいるだろうに。
しばらくして唇が解放されたとき、その疑問が口をついて出た。
「……どうして私なの?」
頬を包んだ両手はそのままに、新條は静かに微笑む。
「花梨が好きだから」
答になっていない。若干イラッとしながらさらに尋ねる。
「だからどこが?」
「全部。恋は盲目って言うし?」
この脳天気な笑顔を張り倒してやりたい衝動に駆られるが、両手で持った紅茶入りのマグカップがそれを阻んでいた。
ムッとして睨む花梨をのぞき込んで新條が続ける。
「まぁ、強いてあげるなら、花梨はブレないから」
「はぁ?」
「オレのどんな噂を聞いても全然変わらないだろ?」
「まぁ、噂は噂だし、あんたの本質には何も関係ない噂だし」