溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
確かに周りの反応について、噂の影響は顕著だった。
先に出たのは入社後間もなく「御曹司」の噂。元々人目を惹く容姿で女子人気は高かったが、噂が出てから人気はさらに上がった。
おまけに先輩や上司まで新條への態度が変わったのだ。御曹司の機嫌を損ねて会社の進退にまで発展したら面倒だからだろう。
誰も引き受けたがらないので、穏和な桧山部長が押しつけられたんじゃないかと、以前新條が言っていた。今は新條の人柄や仕事ぶりが評価されて当時のように腫れ物に触るような扱いはなくなっている。
そして「ゲイ」の噂が流れた途端に、うるさく群がっていた女子は波が引くようにきれいにいなくなった。残ったのは花梨だけだ。もっとも花梨は群がっていたわけではないが。
「花梨はブレないから、この先何があってもずっと一緒にいられるし一緒にいたいって思ったんだ」
「ちょっと待って。それプロポーズに聞こえるんだけど」
花梨の言葉に、新條は今気がついたかのように目をしばたたく。
「あ、そっか」
そして満面の笑みを浮かべて嬉しそうに言う。
「そう思ってくれてもいいよ」
その眩しい笑顔にほだされて、うっかり流されそうになるのをなんとか踏みとどまった。
「無理! 私、結婚や恋愛に向いてないのよ。今日でわかったでしょ? 同じ部屋に他人がいると落ち着かないの。他人と一緒に生活するなんて考えられない」
新條は一瞬真顔に戻る。
今度こそ呆れて、恋人契約解消されると思ったのも束の間、次の瞬間いたずらっぽい笑みを浮かべて提案してきた。
「じゃあさ、オレんちに引っ越してこない?」
「はぁ!?」
話聞いてた? どういう経緯でそんな結論に達したのかさっぱりわからず、花梨はあんぐりと口を開けたまま新條を見つめる。
手にした紅茶は猫舌にも気持ち悪い人肌の温度になっていた。