溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
風呂から上がって部屋着に着替えた花梨は、リビングを覗いた。先に風呂を済ませた新條が、ソファに座ってスマホをいじりながら缶ビールを飲んでいる。花梨に気付いた新條は、スマホをローテーブルに置いて声をかけた。
「まだ部屋に戻らないなら一緒に飲まない?」
「うん」
「じゃあ、冷蔵庫から好きなだけ取ってきて」
「一本でいいよ」
冷蔵庫からビールを取ってリビングに戻る。チラリとリビングの片隅に目をやると、やはりいた。ロボット掃除機が充電器に収まっている。
予想が的中したことに気分をよくしながら、人ひとり分の距離を置いて新條の隣に座った。その様子を見ていた新條がクスリと笑ってつぶやく。
「オレはそのあたりか……」
「ん? なんのこと?」
缶ビールを開けながら花梨は首を傾げた。新條は苦笑しながら意味不明なことを言う。
「立ち入り禁止の境界線」
「へ?」
「パーソナルスペースだよ。花梨は広いみたいだから」
「なにそれ」
「自分を中心にして他人が踏み込んだら不快に思う範囲のこと。動物の縄張りみたいなもんかな。人によって広さは違うけど」
「それが私は広いの?」
「だって、他人が同じ部屋にいると落ち着かないんでしょ? 夫婦でもありえないって言ってたし。だいたいはあかの他人でも一メートルも離れればそれほど気にならなくなるんだよ。思い当たることない?」
「言われてみれば……」
確かに人とは物理的にある程度距離を置きたい。会社の席も今までは隣が空席だったから快適だったのに、田辺さんが隣に来て無性に落ち着かない。
カフェでも隣に人が来るのがイヤで、迷惑だろうなと思いつつも混んでない限りは四人掛けのボックス席に座る。
相席当たり前の社員食堂には絶対に行かない。
親戚のお見舞いに行って、カーテンで仕切られてるだけの病院の大部屋とか絶対に入院できないなと思った。
思い当たることが多すぎる。