溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
「それって、広いと色々まずいよね」
「でも、知らない人と距離を取りたいのは誰でもそうだと思うし、親密度によって範囲は変わるんだよ」
近くにいても気にならないのは親密度が高い証拠だという。
一般的には男より女の方がパーソナルスペースは狭いらしい。そのせいで男が勘違いすることもよくあるようだ。
女の方は距離を取っているつもりでも、男のパーソナルスペースに踏み込んでいることがある。距離を詰めてきたから、自分に好意を持っていると勘違いしてしまうのだ。
「花梨はそんな勘違いされる心配なさそうだけど、オレとのこの距離って微妙だよね」
「意識してるわけじゃないけど、他の人よりは親密度高いと思うし。友だち以上恋人未満、そんな感じ?」
脅されて恋人契約してるし、何度もキスを許してるけど、恋人だとは言い難い。けれど真っ向から否定するのも気が引けるので、お茶を濁しておく。
新條はクスリと笑って花梨の頬に手を伸ばす。
「でも、ほら。簡単に触れる距離なんだよね。完全にオレのパーソナルスペースに入ってるんだよ。少しは期待してもいい?」
「えっと……」
頭の中で警告アラームが鳴り始める。そういえばこいつは、よからぬ事しか考えてないと自分で言っていた。
わかってたはずなのに、無意識とはいえ手の届く場所に踏み込んでしまったのはどうしてだろう。
嫌いじゃない。どちらかと言えば好き。でも新條のことを何も知らない。同居を強硬に拒絶しなかったのは、もっと知りたいと思ったからかもしれない。わずか数時間でかなり衝撃は受けたけど。
なにも答えられずに固まっている花梨に、顔を近づけて新條は耳元で囁く。
「緊張しないで。花梨からもっと距離を詰めてくるまで待ってるから」
そう言って耳たぶにキスをした。
「ひゃあっ!」
思わず変な悲鳴を上げて体がピクリと跳ねる。動揺しているのは丸わかりで悔しいけど、花梨は耳を押さえながら新條を睨んだ。
「そう思ってるなら、いきなりキスしないで」
「だって、いきなりじゃないとできないしね」
こいつは!
叩こうと振り下ろした手は、ひょいと簡単によけられた。
手の届く距離は、新條の手が届く距離。花梨からしてみれば、彼はまだ境界線の向こうにいる。もう少し手を伸ばして、彼に触れてみたいと思った。