溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
移行作業が終わったテスト系の端末に移動して、新條はキーボードを操作し始めた。その背中に向かって、花梨はおにぎりをかじりながら尋ねる。
「この後、どうするの?」
「確定処理以外で更新されたデータを特定する。手伝ってくれる?」
「もちろん」
それからふたりで、朝のデータと確定後のデータを手を変え品を変え検索したり比較したりを繰り返した。なんとか目当てのデータを一覧にまとめることができて、時計を見ると日付が変わっている。
花梨はイスの背にもたれて、両手の拳を天井に突き上げた。
「やったーっ。なんとか支給に間に合いそう」
「お疲れ。明日朝一に一覧を確認してもらってOKならすぐに復旧しよう。藤本さんにメールしとくから端末落として」
「うん」
新條がマシンルームを出た後、花梨も端末を落として部屋を出た。部屋の外は、保守チームの上だけを残して、フロアの灯りは消えている。いつも誰かが残業している開発チームも全員退社したようだ。静まりかえった薄暗い室内には、新條の叩くキーボードの音だけが響いていた。
花梨は自席に戻り、パソコンをシャットダウンして帰り支度をしながら新條に声をかけた。
「ごめんね。午後休だったのに呼び出しちゃって」
「いいよ。用事はもう済んでたし、お客様にはいつも潜在バグや謎仕様で対応できずに迷惑かけてるし。できることは対応したいから」
「そうだね。ありがとう。私ひとりじゃ対応できなかった」
「オレひとりでも朝までかかってたかもしれないよ。こんな時間まで付き合ってくれてありがとう」
逆にお礼を言われてなんだか照れくさくなる。目を逸らしてうつむいた花梨に、帰り支度を終えた新條が歩み寄ってきた。
そしておもむろに肩を抱くと、出口に向かって歩き始める。
「ちょっと! ここ会社!」
「誰もいないし。もう遅いから、さっさと帰って一緒に寝よう」
「一緒には寝ないから!」
「えー? オレは途中抜けてたけど、花梨は一日中働いてて疲れてるだろ? ソファベッドよりオレのベッドの方が寝心地いいよ?」
「それは知ってるけど……」