溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
「ちょっと待って。今を乗り切るってなにを乗り切るの?」
新條は再び目を伏せてうつむく。
「オレ、近々見合いするんだ。相手は誰かは知らないけど、親父の取引先のお嬢さん。向こうから断らない限りオレからは断れそうにない」
いわゆる政略結婚。庶民の花梨には絵空事のような話だが、御曹司の新條にはあってもおかしくない話なのだろう。
「……なんか、急だね」
「そうでもないよ。前々からあった話なんだけど、この間急に具体化しただけ」
話が持ち上がった頃は、相手がまだ学生だったらしい。おまけに一人娘で父親は溺愛している。娘を政略の駒にしたくはないが、断って新條との縁を切ってしまうと経営に影響があるし、というので「娘がまだ子供だから」という理由で、相手の方がのらりくらりと先延ばしにしていたらしい。
そもそも政略結婚を企てたのは新條の親ではなく、経営に関わっている叔父だという。
「なんで最近になって具体化したの?」
「オレがゲイだって噂が叔父の耳に入ったんだ」
なんと。東京まで噂が広まったとは。
新條の親兄弟は「いつまでも浮いた話がないと思えば、そういうことだったのか」と笑い飛ばしたらしい。
次期社長候補として経営に関わっている長男と次男は結婚してすでに子供もいるので、後継者問題もない。経営も順調なので、新條が先方も渋っている政略結婚をわざわざする必要もないのだ。
ところが結婚話を企てた叔父にとっては笑い事ではなかったらしい。外部に漏れる前に、さっさと結婚させてしまえば噂を消せると考えたのだ。
「なるほどね。あんたがどこの御曹司かは知らないだろうけど、噂は外部にしか流れてないのにね。なんで親族にピンポイントで噂が流れたのかな」
「社内に内通者がいる。これが叔父に送られたんだ」
新條が花梨の前に突き出したスマホには、野口くんにじゃれついて楽しそうにしている新條の写真が表示されていた。