溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
社内で唯一普通に話のできる相手に、かなりほだされているとは思いつつも、彼女を容疑者呼ばわりされて花梨はムッとしながら尋ねた。
「それで、あんたはどうしたいの? 犯人を突き止めたいの? 突き止めたとしてどうするの? 叔父さんが写真を見た事実は消せないでしょ?」
畳みかける花梨の剣幕に、新條は少し焦りながら弁明する。
「犯人を見つけてどうこうしようって気はないよ。ただ誰だかわからないままだとモヤモヤするから。花梨は無関係だし、仲良くしている田辺さんを疑われるのは不愉快だろうけど、オレは最初から彼女に不信感を抱いてたんだ」
「なんで? なれなれしかったから?」
「そうじゃない」
てっきり配属初日にいきなり猛烈アプローチかけられて、うんざりしているもんだと思っていたが、なにか他にあるらしい。
「なにか変だった? いやまぁ、ほとんど変といえば変だったけど」
苦笑する花梨に新條は真顔で答えた。
「オレの名前が貴陽(きよう)だって知ってた。部長はフルネームで紹介したけど、漢字まではわからないだろう?」
確かに北斗や花梨は読みがそのままフルーツの名前だけど、”タカヒロ”が”貴陽”だと思う人はあまりいないだろう。
社員の個人情報を閲覧できるのは総務か人事の限られた社員だけで、課長職以上の役職者も自分の部下に限定されている。
名前だけとはいえ、社内で誰でも目にできるものは、基本的に名字のみでフルネームは滅多に目にしない。
不思議に思って新條はあとで部長に尋ねたらしい。すると、意外な事実を知らされた。
実は部長も田辺さんが自分の部下として配属されることを聞かされたのは前日の夜で、本人に会ったのは当日だという。そんな状況ではメンバーの名前を書面で知らせたりする機会はなかったと思われる。
つまり、田辺さんは十中八九新條の名前を配属前から知っていたという事だ。