溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
それでも、あのふわふわした子が何か企んでいるとは考えられなくて、花梨は他に理由を探してみる。
「でもほら、教育期間中に社内であんたのこと見かけて、教育担当の社員に聞いたのかもしれないし」
「まぁ、そういう可能性もあるけど、自分が教えてもないのに先に知られてるって、あんまりいい気分じゃないよ」
「それは、そうだよねぇ……」
せっかくできた社内で唯一話のできる女子に疑惑が生じて、花梨はなんだか気持ちがしぼんできた。
すっかり冷め切ったコーヒーを、黙ってうつむいたままチビチビとすする。
すると目の前に、ベルベットの小箱に鎮座したダイヤの指輪がズイと押し出された。
「納得したなら話を元に戻すよ。ちゃんと返事を聞かせて」
「えーと……」
そういえばプロポーズされたんだった。盗撮犯推理とか、なんだかミステリな展開にすっかり忘れていた。
理由を聞いても、なんか釈然としない。新條は叔父が勝手に決めた相手と結婚したくないから、あわててプロポーズしたような気がする。
それって、ゲイの偽装結婚だとすれば別に花梨じゃなくても誰でもいいってことではないだろうか。新條の親族は間違いなくそう思うだろう。
そんな花梨の胸の内を見透かしたように新條が言う。
「オレは花梨じゃないとイヤなんだ。本当なら花梨との境界線がなくなるまで待つつもりだったけど、時間がなくなった」
「……すぐに答えなきゃダメ?」
一生の問題なのにこんな突然宣告されて即答なんてできない。少し考える時間がほしい。
「お見合いはいつなの?」
「今週末」
「え、あさって?」
「そう。だから、できれば今すぐ答えてほしい」
どうしてこんなにいきなり将来の決断をしなければならないのだろう。
新條との結婚生活を考えると、たぶん今の同居生活と大して変わらないと思う。それは結構快適で楽しくて、ひとりでいてもそれは変わらないけど、ひとりの時には感じない安心感がある。他の人ではこうはいかないだろう。