溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
なにしろ新條との距離感は五年かけて徐々に築かれていったものだ。それでもまだ境界線は踏み越えられずにいる。他の人を結婚相手にするなら、これからそれくらいの年月が必要なのだ。
そう思うと気が遠くなる。のんきにそんなに長い間待ってくれる人もそうそういないだろう。
御曹司で性格もよくて、一緒に生活しても家事は分担してくれるし、快適で安心できる。おまけに自分以外の女はいらないと言ってくれる。客観的に見れば、結婚相手としては超優良物件。
花梨自身も結婚するなら新條以外は無理だろうと思っていた。時が来て境界線を越えたなら、ためらいもなく二つ返事で快諾していただろう。
だけどこんな風に、見合いを断るために結婚したくはない。
いずれはそうなってもいいと思っていたとしても、何かで衝突することになったら、きっとそのたびに後悔の種になる。
本当は見合いが壊せるなら誰でもよかったんじゃないか、目の前にいてちょうどよかったから利用されただけなんだと。
新條はどう思っているんだろう。今後のことを少しは考えているんだろうか。
「ねぇ。先に聞いてみたいんだけど、もしも私が断ったらどうするの?」
新條は目を伏せてふてくされたように言う。
「流れに任せるよ。花梨じゃないなら誰だって同じだ」
いつになく投げやりな態度に若干イラッとしながら、花梨は机の端をパシンと叩いた。
「そんなの、あんたらしくない」
新條がハッとしたように顔を上げてこちらを向く。その目をまっすぐ見つめて花梨は続けた。
「挑む前から放棄するなんて、腹黒策士のあんたらしくない。私があんたの恋人だってことは利用していいから。望まない結婚をしたくないなら対策を練って。返事はその後よ」
そう言って指輪の入ったケースを押し戻す。戻されたケースにフタをして、新條はそれをポケットに収めた。そして嬉しそうに満面の笑みをたたえる。
「わかった。対策を練ってみるよ」