溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
事態は結構ひっ迫しているのに、なんでニコニコしているのか不思議で花梨は尋ねた。
「なんで笑ってるの?」
新條は相変わらずニコニコしたまま答える。
「だって花梨が恋人だって認めてくれたから」
「え、そこ?」
見合いを壊すなら効果的かと思って許可しただけなのに、そんなに喜ばれるとは思わなかった。いや、それ以前に見合いがなければそのうち結婚するつもりだったとか、二つ返事でプロポーズを受けるとか、考えていた自分が今更ながら恥ずかしくなってきた。
あんなにありえないと思っていたのに、いつの間にか自分の方が新條を恋人扱いしていたようだ。
でもそれを認めてしまうのはちょっと悔しいので、花梨は動揺を隠しながら言い訳をする。
「だって恋人契約中だし」
「そうだったね」
でも新條にはお見通しみたいで余裕の笑みを浮かべている。やっぱりちょっと悔しい。
目を逸らして窓の外の夜景を眺めていると、新條がおもむろに立ち上がった。
「じゃあ、緊急対策会議を開くから、対策本部に移動しようか」
「え? うん……」
喫茶店にでも移動するんだろうか。特に疑問も抱かず、新條に従ってエレベータに乗り込む。最上階のボタンを押して新條はサラリと告げた。
「部屋とってるんだ。そこで対策会議開こう」
「え、なんで!? 泊まるの?」
思い切りうろたえる花梨を横目に見て、新條はクスリと笑う。
「花梨がプロポーズを受けてくれたら、そのままめくるめく既成事実を作ってしまおうと思って」
「めくるめくって……。断られるとは思わなかったの?」
「全然思ってなかった。まさかの保留になるともね」
余裕をなくしていたという割には、余裕の自信満々ではないか、このイケメン御曹司は。
すっかり呆れて花梨がため息をついたと同時にエレベータが目的階に着いた。一歩足を踏み出した廊下は、慣れないハイヒールの足を取られてしまいそうなふかふかの絨毯が敷かれている。
よろよろする花梨を華麗にエスコートして、新條は突き当たり右手の部屋にカードキーを差し込んだ。
「スイートだから、中はオレんちくらいの広さはあるよ。ベッドもふたつあるし花梨のパーソナルスペースは余裕で確保できる。安心していいよ」
「スイート!?」
「大丈夫。身内価格で格安にしてもらったから」
それにしても結構なお値段ではないだろうか。今日だけでどれだけ散財しているんだろう。新條のヤケっぷりが窺える。
「部屋の中にバーカウンターがあるんだ。バーテンダーを呼んでカクテルを作ってもらえるんだよ。夜景を眺めて一杯やりながら、ふたりきりで対策会議しようよ」
飲みながら会議って絶対うまくまとまるわけがない。そう思ったが超高級ホテルのスイートルームには興味がある。第一、この先二度と来られる保証はない。
常々よからぬことしか考えてないと断言している新條のことだから、なにか企んでいる可能性はある。余裕をなくしていようとも、腹黒策士は健在ということらしい。
けれど結局好奇心に負けて、花梨は新條の促すままに部屋の中に入った。