溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
8.スイートルームの一夜
「うっわ、まぶしっ」
部屋に入って灯りが点けられると、花梨は天井を見上げて目を細めた。
客室に豪華絢爛シャンデリアとは。
部屋の右手には新條の言っていたバーカウンターがあって、壁際の棚には洋酒やリキュールとグラスが並んでいる。左手にはどっしりとした応接セットがあった。ベッドはない。さしずめ、この部屋はリビングのようなものだろうか。
隣の部屋にキングサイズのベッドがチラリと見えた。新條がベッドはふたつあると言っていたので、少なくとももう一部屋あるということだろう。考えただけでクラクラする。
泊まるだけならこんなに無駄な広さは必要ない気がする。ベストセラー連発の大作家先生が自主缶詰にでも利用するんだろうか。
花梨が利用客に想像を巡らせていると、天井にあるシャンデリアの灯りが落とされた。バーカウンターの上と応接セット横、そして正面にある床から天井まで総ガラス張りの大きな窓の上だけに暖色の淡い灯りが残る。薄暗くなった室内から、大きな窓一面に広がる夜景が見渡せた。
「このくらいならまぶしくない?」
「うん。いい眺めだね」
窓際に向かおうとした花梨の手首を新條が掴んだ。反動で倒れ込んだ花梨を背中から抱きしめる。
耳元で新條が囁いた。
「花梨、今夜……」
「あ、このドレス返しに行かなきゃ」
言葉を遮って、花梨は新條の腕からすり抜けた。ちょっと露骨だったかなと思いながら振り返る。新條は苦笑しながらカードキーを差し出した。
「行っておいで。花梨が戻るまでにバーテンダーを呼んでおくよ」
「うん。ありがとう」
急いで二階まで降りて変身を解く。軽く化粧直しをして戻ると、新條はバーカウンターの前に腰掛け片肘をついてスマホをいじっていた。すでにグラスに入った何かを飲んでいる。
何か夢中になっているようで、こちらには気付いていない。
新條は上着を脱いでネクタイを外し、シャツのボタンも三つ外している。着崩したシャツの隙間からのぞく首筋が妙に艶めかしくて、花梨は内心ドキリとした。新條の首筋なんて家で何度も見ているはずなのに。