溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
バーカウンターの中には初老の男性がいて花梨に軽く会釈する。その様子にハッとして、新條がこちらを向いた。途端に笑顔になってスマホをカウンターに置く。
「おかえり。こっちにおいでよ」
「うん」
バーカウンターには等間隔に四つの椅子が並んでいる。花梨は特に意識することもなく新條の隣に座った。肩が触れ合いそうなほど距離が近い。それを見て新條が嬉しそうに笑う。
「こんな近くに花梨が座るの初めてだね」
「え、そうだっけ?」
「いつも向かい合わせだったよ」
「そう言えば……」
新條と飲みに行ったりするのは、いつも居酒屋とかなので隣に座ったことはない。新條が首を傾げながら尋ねてきた。
「平気?」
「なにが?」
「パーソナルスペース」
「あぁ。大丈夫」
「よかった」
そう言って新條は一層嬉しそうに微笑んだ。改めて指摘されると確かに距離が近い。けれど今までと違って気持ちは安定している。一緒に暮らしているうちに新條との距離はまた縮まったということなのだろうか。
そんなことを考えていると、カウンターの向こうから男性が声をかけてきた。
「なにかお作りしましょうか?」
「えーと。私、カクテルとかよくわからなくて……」
居酒屋ビールか酎ハイが専門の花梨には、おしゃれなカクテルはなにがなんだかわからない。言い淀んでいると、新條が助け船を出した。
「飲みたい味を言ったらそういうのを作ってくれるよ」
「じゃあ、柑橘系の爽やかなやつ」
「かしこまりました」
男性は軽く頭を下げて作業に取りかかる。それを眺めながら新條が彼を紹介してくれた。
「彼は水谷さん。昔、親父の行きつけの店で働いてたんだけど、その店が閉店したとき親父が声かけてうちに来てもらったんだ」
「水谷です。新條さんにはお世話になっております」
「知り合いだったんですか?」
花梨が尋ねると、水谷さんはいたずらっぽい笑みを浮かべながら新條に視線を向ける。
「タカヒロくんが中学生の頃からですね」
「え、なんで中学生がバーテンダーと知り合いなの?」