溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
軽く頭を下げて水谷さんは作業に取りかかる。壁際の棚から次々にリキュールを取り出してカウンターに並べた。特に余裕をなくしているようには見えない。
「なに頼んだの?」
「バーテンダーの腕が試されるめんどくさいカクテル」
聞いてもよくわからず、花梨は水谷さんの作業を見つめる。作業台はカウンターより低く、グラスの頭しか見えない。だが、マドラーの柄を伝わせるようにしながら次々に並べたリキュールをグラスに注いでいるのはわかる。少しして水谷さんは新條の前にグラスを置いた。
「レインボーです」
「わぁ、ホントにレインボーだ。きれい」
カクテルを見つめて、花梨は思わず感嘆の声を上げる。
流線型のグラスには、七色のリキュールが順番に積み重ねられ、虹のような縞模様を作っていた。
「これどうして混ざり合わないの?」
「比重の重い順に静かに重ねていくんだよ。勢いよく注いだら当然混ざっちゃうから、神経使うめんどくさいカクテルなんだ。見た目重視だから味はいまひとつだけどね」
「へぇ。カクテル詳しいのね」
「そりゃあ、水谷さんに色々教えてもらってるし」
どうやら新條と水谷さんはただの知り合いというよりは、もう少し深いつながりがあるようだ。
それから花梨も別のカクテルを作ってもらったり、新條の父親の話を聞いたりした。案の定、対策会議にはなっていない。
やがてルームサービスのタイムリミットがきて、水谷さんは部屋を出ていった。
水谷さんを見送って、少しだけ残っていたカクテルを一気に飲み干すと、新條は席を立った。
「本格的に会議をする前にお風呂済ませようよ」
どうやら忘れているわけではないようだ。花梨はカクテルグラスを掲げてみせる。
「私まだ少し残ってるから、先に入っていいよ」
「じゃあ、お湯を張っておくね。お風呂もふたつあるんだよ。オレはシャワーでいいから、花梨はジャグジーでのんびりして」
「うん。ありがとう」
なんと。お風呂までふたつ。しかもジャグジーとは。
まぁ、部屋の広さからして家族でも余裕そうだからかもしれない。