溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
「興味ないから全然知らなかったけど、家具小売り店の娘さんらしい。うちには部屋のベッドや調度品を納入してる。母方の実家は寝具メーカーで、うちはそっちとも取引あるみたいだ。ん? どっちもこの近所だな」
「で、肝心の娘さんはどんな人?」
「待って」
そう言って新條は画面を先へとスクロールさせる。すぐに指が止まって読み上げ始めた。
「日向杏子(ひゅうがきょうこ)二十二歳。親と同居。ってことは、この近所に住んでるのか。この春大学を卒業後、地元企業……」
そこまで読んで、新條がピタリと止まった。声も指も瞬きすら忘れたように画面を凝視している。その横顔を訝しげに見つめながら花梨は問いかけた。
「どうしたの?」
相変わらず画面を見つめたままで新條はポツリとつぶやく。
「うちの新入社員だ」
「えぇ!?」
弾かれたようにこちらを向いた新條が、花梨の肩をつかんで尋ねた。
「花梨、日向杏子って新人女子社員知ってる!?」
「ごめん。知らない」
新人女子で花梨が顔と名前を知っているのは田辺さんとその友人二名だけだ。そしてその二名は該当者ではない。
そもそも花梨は社内の女子はほぼ敵状態なので、他の部署の女子と近づく可能性のある女子更衣室にめったに行かないのだ。新人に限らず、他部署の女子社員はほとんど知らない。
花梨の返答にがっかりしたようにため息をついて、新條は肩から手を離した。そしてスマホの画面に目を移す。
ふいにハッと目を見開いて画面をスクロールし始めた。何度か行ったり来たりを繰り返してつぶやく。
「そうか、もしかしたら……」
「え、なに?」
いったいなんのことだかわからず花梨が尋ねると、なんだかふっきれたようにいつもの自信満々の笑顔で答えた。
「確証はないから詳しくは言えないけど、光明が見えてきたかも」
「そうなの?」
結局なんだかわからない。花梨はモヤモヤしたままビールを傾ける。
その缶を取り上げてテーブルに置き、新條は席を立った。
「明日も会社だし、もう寝よう。着替えておいでよ。その服脱がせにくいし」
「いや、あんたが脱がせること前提の服じゃないし」
ブラウスのボタンが背中にあるのが気に入らないのだろう。それでさっき手が腰のあたりでごそごそしていたのか。