溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
半ばあきれながら花梨が缶を開けようとしたとき、新條がいきなり肩を抱き寄せた。
「ちょっ! こぼれる!」
「まだ開けてないのは確認済み」
さすが腹黒策士はぬかりない。
「なんなのよ、いきなり」
ちょっとムッとしながら問いかけると、新條は嬉しそうに笑いながらすり寄ってくる。
「嬉しくて。花梨がオレのすぐ隣に座ってくれたから」
「そんなに喜ぶことなの?」
「だって、縄張りの広い花梨が、オレを同じ縄張りの仲間として受け入れてくれたってことだよ」
「縄張りって……。野生動物ややくざみたいに言わないでよ」
「野生動物なみに捕獲に苦労したよ」
「私、捕獲されたの?」
「違うの?」
真顔で問い返されて、花梨は思わず目を逸らす。
「……ノーコメント」
「えー?」
不満げな声を漏らしながらも、新條は益々花梨にすり寄ってくる。こちらの方が、きれいでクールな野生動物を手懐けた気分になった。
花梨が捕獲されたのは事実だが、ここで肯定するわけにはいかない。すでに境界線は消えているけど、新條はまだ確信を得ていない。
それを与えれば彼が境界線を突破してくるだろう。花梨には拒否できる自信がまったくなかった。
そんな花梨の心の動揺に気付いているのかいないのか、新條は花梨を腕の中に抱えたままでDVDのリモコンのスタートボタンを押す。
「なに観るの?」
「二十世紀のSF映画」
「スターウォーズみたいなの?」
「違うよ。地球上が舞台だし」
「そういうのって、当時の人が考えた未来予想が、今見たら結構笑ったりしない?」
「うーん。たぶんこれは気にならないと思うよ。だってメインの舞台がコンピュータの中だから」
「え、なんかおもしろそう」
そのまま新條の腕の中で昔のSF映画を見る。
それは自分の開発したゲームプログラムを奪われたプログラマが、悪意のあるプログラムによって体を電子化されコンピュータの中に放り込まれる。そこで負ければ体が消滅してしまうゲームを強要されるわけだが、他のプログラムと協力しながら自分のプログラムが不正に奪われた証拠を探すというものだ。恋愛要素はない。
体が電子化される過程も荒唐無稽なようで、ちゃんと科学的に説明されていてそれなりに説得力はある。パッケージに書かれていた説明によると世界で初めて映画にCGが使用された作品らしい。今のCGに比べれば稚拙かもしれないが、コンピュータの中の世界を表現するにはシンプルで合っているような気がする。
気がつくと花梨は映画に夢中になっていた。